伊勢大輔
おきあかし見つつながむる萩の上の露ふきみだる秋の夜の風
能因法師
思ふことなけれどぬれぬ我が袖はうたたある野邊の萩の露かな
新左衛門
まだ宵にねたる萩かなおなじえにやがて置きゐる露もこそあれ
中納言女王
人しれず物をや思ふ秋萩のねたるかほにて露ぞこぼるる
和泉式部
かぎりあらん仲ははかなくなりぬとも露けき萩の上をだにとへ
筑前乳母
白露も心おきてや思ふらんぬしもたづねぬ宿の秋萩
橘則長
おく露にたわむ枝だにあるものをいかでか折らん宿の秋萩
源時綱
君なくて荒れたる宿の浅茅生に鶉なくなり秋の夕暮
藤原通宗朝臣
秋風にしたばや寒くなりぬらん小萩が原に鶉なくなり
藤原範永朝臣
けさきつる野原の露に我ぬれぬうつりやしぬる萩が花ずり
素意法師
いはれ野の萩のあさ露分け行けば恋せし袖の心地こそすれ
藤原長能
ささがにのすがく浅茅の末ごとに乱れてぬける白露の玉
橘為義朝臣
いかにして玉にもぬかん夕されば荻の葉分けにむすぶ白露
良暹法師
袖ふれば露こぼれけり秋の野はまくりでにてぞ行くべかりける
源親範
秋の野は折るべき花もなかりけりこぼれて消えん露の惜しさに
大中臣能宣朝臣
草の上におきてぞあかす秋の夜の露ことならぬ我が身と思へば
堀河右大臣頼宗
をみなへしかげをうつせば心なき水も色なる物にぞありける
橘則長
女郎花多かるのべにけふしもあれうしろめたくも思ひやるかな
前律師慶暹
秋風に折れじとすまふ女郎花いくたび野邊におきふしぬらん
清原元輔
秋の野に狩ぞ暮れぬる女郎花こよひばかりは宿もかさなん