和歌と俳句

曽禰好忠

1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14

与謝の浦に老の波かず算へつるあまのしわざと人も見よとぞ

かすみがき立てたることもなき人の流れての世のしるしなりけり

うちわたし岸べは波にやぶるとも我名は朽ちじ天の橋立

耳に聞き目に見ることを寫しをきてゆく末の世に人にいはせん

新古今集・恋小倉百人一首
由良のとを渡る舟人かぢを絶え行方も知らぬ恋の道かな

あり経じと嘆くものから限りあれば涙にうきて世をもふるかな

さかた川淵は瀬にこそなりにけれ水の流は早くながらに

八橋のくもでに物を思ふかな袖を涙の淵となしつつ

かきくらす心の闇にまどひつつ憂しと見る世にふるがわびしさ

今日かとも知らぬ憂き世を嘆くまにわが黒髪ぞ白くなりゆく

ささなみの長柄の山にながらへば心にもののかなはざらめや

類よりもひとり離れて飛ぶ雁の友におくるる我身かなしな

もろ小菅しげれる宿の草の葉に玉と見るまで置ける白露

のどかにもおもほゆるかな常夏に久しくにほふ山となでしこ

井手の山よそながらにも見るべきを立ちな隔てそ峰の白雲

あれば厭ふなければしのぶ世の中に我身ひとつはありわびぬやは

澤田川流れて人の見えこずはたれに見せまし底の白玉

草繁み伏見の里は荒れぬらしここにわが世の久に経ぬれば

花薄ほに出でて人を恋ふるかなしのばむことのあぢきなければ

飛ぶ鳥の心は空にあくがれて行方も知らぬものをこそ思へ

藻屑焼く浦にはあまやかれにけん煙立つとも見えずなりゆく

故郷はありしさまにもあらずとかいふ人あらば問ひて聞かばや

野飼せし駒のはるよりあさりしに尽きずもあるかな淀の若菰

かひなくて月日をのみぞ過しくる空をながめて世をし過せば

詞花集・恋
播磨なる飾磨に染むるあながちに人を恋しと思ふころかな