和歌と俳句

曽禰好忠

1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14

ははこ摘むやよひの月になりぬればひらけぬらしも我宿の

花見にといとまを春の山にいれて木のもとごとにながめをぞする

わらびおふる矢田の廣野にうち群れており暮しつつ帰る里人

道遠みもの憂しとおもふ春の野も花見る時ぞ心ゆきぬる

朝な朝な庭草取るとせしほどに妹は垣根はうすらぎにけり

宮城野の焼生の萩のした葉よりもとあらに咲かむ花をしぞ思

花によりこよひのかぜにいをねずはあやなく妹や心へだてん

色見むと植ゑしもしるく山吹の思ぐさまにも咲ける花かな

笠なしに花見にきたる今日しもあれよもの山べはくらがりにけり

櫻花見るに心はゆきぬれば春はいそぎに名をぞたてぬる

ねやの上に雀の聲ぞすだくなる出で立ちがたに子やなりぬらん

花ざかりあまたの春を過しつつ我身のならぬ嘆きをぞする

玉垣の三津の船戸に春なればゆきかふ人の花をたむくる

二葉より見つつなれにし花櫻なにをうとしとかくす霞ぞ

雪かとも見れば櫻のたまらぬは咲くほどなしに散ればなりけり

花見にと故郷さしてゆく道をながびくほどに風もこそ立て

山姫の染めてはさぼす衣かと見るまでにほふ岩つつじかな

山がくれ風に知られぬ花しあらばけふは過ぐとも折りてかざさむ

我ために霞は花をかくせども荒き風にはしたがひにけり

たくひれの鷺坂岡のつつじ原色照るまでに花咲きにけり

道芝もけふははるばる青み映え下り居る雲雀かくろへぬべみ

御園生の夏野の草もおひにけり今朝の朝菜になにを摘ままし

過ぎぬらん月日も知らず春はただ淀の若菰刈るもてぞ知る

荒げにて焼生に見えし春の野の草深げにもなりにけるかな

三保の浦の引き網の綱たぐれども長きは春の一日なりけり

野洲川の早瀬にさせるのぼり梁けふの日和にいくら積れり

つばな抜く浅茅が原も老いにけり白綿ひける野べと見るまで

浅茅生もすずめがくれになりにけりむべ木のもとはお暗かるらん

春深くなりにけりとは住の江の岸の藤波織るにてぞ知る

梅津川春の暮にぞなりにける瀬々の井堰にせきも止めなむ