ははこ摘むやよひの月になりぬればひらけぬらしも我宿の桃
花見にといとまを春の山にいれて木のもとごとにながめをぞする
わらびおふる矢田の廣野にうち群れており暮しつつ帰る里人
道遠みもの憂しとおもふ春の野も花見る時ぞ心ゆきぬる
朝な朝な庭草取るとせしほどに妹は垣根はうすらぎにけり
宮城野の焼生の萩のした葉よりもとあらに咲かむ花をしぞ思
花によりこよひのかぜにいをねずはあやなく妹や心へだてん
色見むと植ゑしもしるく山吹の思ぐさまにも咲ける花かな
笠なしに花見にきたる今日しもあれよもの山べはくらがりにけり
櫻花見るに心はゆきぬれば春はいそぎに名をぞたてぬる
ねやの上に雀の聲ぞすだくなる出で立ちがたに子やなりぬらん
花ざかりあまたの春を過しつつ我身のならぬ嘆きをぞする
玉垣の三津の船戸に春なればゆきかふ人の花をたむくる
二葉より見つつなれにし花櫻なにをうとしとかくす霞ぞ
雪かとも見れば櫻のたまらぬは咲くほどなしに散ればなりけり
花見にと故郷さしてゆく道をながびくほどに風もこそ立て
山姫の染めてはさぼす衣かと見るまでにほふ岩つつじかな
山がくれ風に知られぬ花しあらばけふは過ぐとも折りてかざさむ
我ために霞は花をかくせども荒き風にはしたがひにけり
たくひれの鷺坂岡のつつじ原色照るまでに花咲きにけり
道芝もけふははるばる青み映え下り居る雲雀かくろへぬべみ
御園生の夏野の草もおひにけり今朝の朝菜になにを摘ままし
過ぎぬらん月日も知らず春はただ淀の若菰刈るもてぞ知る
荒げにて焼生に見えし春の野の草深げにもなりにけるかな
三保の浦の引き網の綱たぐれども長きは春の一日なりけり
野洲川の早瀬にさせるのぼり梁けふの日和にいくら積れり
つばな抜く浅茅が原も老いにけり白綿ひける野べと見るまで
浅茅生もすずめがくれになりにけりむべ木のもとはお暗かるらん
春深くなりにけりとは住の江の岸の藤波織るにてぞ知る
梅津川春の暮にぞなりにける瀬々の井堰にせきも止めなむ