いとどしく夜をなが月になりぬれば寝ざめがちにて明すべきかな
よそ耳に鹿のと声を聞きしより秋はかなしきものと知りにき
端山木は夕日に見ればむら濃なりたが織りそむる錦なるらん
秋風のふくさ衣をとき乱りさ乾すほどこそ寒きめもみる
新古今集
人は来ず風に木の葉は散りはてて夜な夜な蟲は声弱るなり
住吉のならしの岡の玉てぐり数ならぬ身は秋ぞかなしき
み山にはむらむら錦引けるかと見るにつけても秋霧ぞ立つ
あづさ山峰の中道かれしよりわが身にあきの来ると知りにき
老いにかる命もしわも延べ払ふ菊の露にぞけふはそぼつる
まぶしさし鳩吹く秋の山人はをのがありかを知らせやはする
雉子なく交野の原を過ぎゆけば木の葉も異に色づきにけり
わぎもこが衣うすれて見えしよりたわれ寝せじと思なりにき
拾遺集・秋
招くとてたれもとまらぬものゆへにあはれ片寄る花薄かな
着る人も世になきものは秋山の風の吹き立つ錦なりけり
ことならば山ともはやくなりななむこゝらの紅葉散り積りつゝ
網代守る宇治の川長年つもりいくそ月日をかぞへ来ぬらん
くらぶ山秋の月夜に見ればあかし峰に紅葉やいとど照るらん
詞花集・秋
山里はゆききの道も見えぬまで秋の木の葉にうづもれにけり
妹がりと風の寒さにゆく我を吹きね返しそさ衣の裾
我家はゆくほど遠し佐保風はしばしもを止め妹も待つらん
箱根山ふた子の山も秋深み明け暮れ風に木の葉散りかふ
外山なる正木のかづら色濃きを見に来る人の見えぬ秋かな
秋深み山の錦とつきたたば着る人なしに散りぬばかりぞ
わが妻とさ夜の寝衣重ね着てかたへを近みむつれてぞ寝る
田上や瀬田の早瀬に簗さしてよるとしなればうき寝をぞする
照射すと秋の山べにいる人の弓の羽風に紅葉散るらし
筏おろすあとの早川堰き止めて暮れゆく秋を見るよしもがな
秋はてて我せの君の絶えしよりねやの夜床もとりぞたててし