見るままに庭の草木は繁れどもいまはかりにもせなは来まさぬ
水草おひし安積の岩井夏なればたもともひぢてむすびあえぬかも
夏の日は空さへ長くなればやはあま照るかげの過ぎがてにする
郭公ほのに初音を聞きしより夜としなれば目のみさめつつ
野べ見れば草ひくばかりになりにけり我苗代も老いやしぬらむ
夏引の白糸のてぐりまだしきに夜は短くなりにけるかな
よのなかのなりゆくさまもおなじこといづらはそこら立ちし霞は
三笠山さしても見えず夏なればいづくともなく青みわたれり
かりに来と恨みし人の絶えにしを草葉につけてしのぶ頃かな
大荒木のした草までに風吹けばなびきて神を祭るころかな
みあれひく神の御戸代ひき植ゑついまは年のみ祈るばかりぞ
八穂蓼も河原を見れば老ひにけりからしや我も年をつみつつ
うつぎ原てこらが布をさらせるかと見しは花の咲けるなりけり
後拾遺集・雑歌
川上のあらふの池のうきぬなはうきことあれや来る人もなき
香をかげば昔の人の恋しさに花橘に手をぞ染めつる
夏の夜ののどけき雨を足引の山の松風吹くかとぞ聞く
蘆の葉にかくれてすめば難波なるこやは夏こそ涼しかりけれ
夏麻の下葉の草のしげさのみ日ごとにまさる頃にもあるかな
夏衣うすくや人の思ふらん我はあつれて過すべき日を
垣根には卯の花植ゑむ雨夜にも我宿守る人と見るかな
かりに来る人につけてぞたわれぬるのどけき夏の草葉なれども
蛙なく井手の若菰刈りほすとつかねもあえず乱れてぞふる
日暮るれば下葉お暗き木のもとのもの恐しき夏の夕暮
世の中は浅茅が原もおなじことしげき夏の日なにか頼まむ
なつかしく手にはとらねど山がつの垣根のむばら花咲きにけり
すくも焼く三保の浦ひとふななれていくその夏をこがれきぬらん
野中にはゆきかふ道も見えぬまでなべて夏草繁りあひけり
夏の日の菅の根よりも長きをぞ衣ぬぎかへ暮しわびぬる