和歌と俳句

曽禰好忠

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後拾遺集
榊とる卯月になれば神山の楢のはがしはもとつ葉もなし

見るままに庭の草木は繁れどもいまはかりにもせなは来まさぬ

水草おひし安積の岩井夏なればたもともひぢてむすびあえぬかも

夏の日は空さへ長くなればやはあま照るかげの過ぎがてにする

郭公ほのに初音を聞きしより夜としなれば目のみさめつつ

野べ見れば草ひくばかりになりにけり我苗代も老いやしぬらむ

夏引の白糸のてぐりまだしきに夜は短くなりにけるかな

よのなかのなりゆくさまもおなじこといづらはそこら立ちし霞は

三笠山さしても見えず夏なればいづくともなく青みわたれり

かりに来と恨みし人の絶えにしを草葉につけてしのぶ頃かな

大荒木のした草までに風吹けばなびきて神を祭るころかな

みあれひく神の御戸代ひき植ゑついまは年のみ祈るばかりぞ

八穂蓼も河原を見れば老ひにけりからしや我も年をつみつつ

うつぎ原てこらが布をさらせるかと見しは花の咲けるなりけり

後拾遺集・雑歌
川上のあらふの池のうきぬなはうきことあれや来る人もなき

後拾遺集夏衣立田河原の柳かげすずみに来つつ馴らすころかな

香をかげば昔の人の恋しさに花橘に手をぞ染めつる

夏の夜ののどけき雨を足引の山の松風吹くかとぞ聞く

蘆の葉にかくれてすめば難波なるこやは夏こそ涼しかりけれ

夏麻の下葉の草のしげさのみ日ごとにまさる頃にもあるかな

夏衣うすくや人の思ふらん我はあつれて過すべき日を

垣根には卯の花植ゑむ雨夜にも我宿守る人と見るかな

かりに来る人につけてぞたわれぬるのどけき夏の草葉なれども

蛙なく井手の若菰刈りほすとつかねもあえず乱れてぞふる

日暮るれば下葉お暗き木のもとのもの恐しき夏の夕暮

世の中は浅茅が原もおなじことしげき夏の日なにか頼まむ

なつかしく手にはとらねど山がつの垣根のむばら花咲きにけり

すくも焼く三保の浦ひとふななれていくその夏をこがれきぬらん

野中にはゆきかふ道も見えぬまでなべて夏草繁りあひけり

夏の日の菅の根よりも長きをぞ衣ぬぎかへ暮しわびぬる