和歌と俳句

井手 ゐで

京都府綴喜郡井手町

古今集・春 よみ人しらず
かはづ鳴くゐでの山吹ちりにけり 花のさかりにあはましものを

好忠
井手の山よそながらにも見るべきを立ちな隔てそ峰の白雲

好忠
蛙なく井手の若菰刈りほすとつかねもあえず乱れてぞふる

拾遺集・春 恵慶
山吹の花の盛りに井手に来てこの里人になりぬべき哉

源氏物語・胡蝶
春の池や井手の河瀬に通ふらん岸の山吹底も匂へり

後拾遺集・雑歌 和泉式部
あぢきなく思ひこそやれつれづれと独や井手のやまぶきの花

顕季
かよひこし 井手のいははし たどるまで ところもさらず 咲ける山吹

崇徳院
山吹の花のゆかりにあやなくもゐでの里人むつまじきかな

千載集・春 匡房
春ふかみ井手の河水かげそはばいくへか見えん山吹の花

千載集・春 基俊
山吹の花咲きにけりかはづ鳴く井手の里人いまやとはまし

千載集・春 肥後
九重に八重山吹をうつしては井手のかはづの心をぞくむ

千載集・春 藤原定経
くちなしの色にぞすめる山吹の花のしたゆく井手の河水

新古今集・恋 よみ人しらず
山城の井手の玉水手に汲みてたのみしかひもなき世なりけり

西行
山吹の花咲く井出の里こそはやしうゐたりと思はざらなむ

俊成
むかしたれ植ゑはじめてか山吹の名を流しけむゐでの玉水

定家
いつしかも都の人にことづてむ井手のやまぶき今ぞさかりと

有家
追風にすだく河づのもろ声も浪も寄り来る井手の川水

雅経
さみだれは すだくかはづの 声ながら さわぎぞまさる 井手のうきくさ

俊成
君が代は井出の山吹さきそひて千代をかさぬる玉水のかげ

俊成
大和路をたえず通ひし折のみやまづ汲みみけむ井出の玉水

雅経
さみだれは もとの汀も 水こえて 波にぞさわぐ 井手のうきくさ

実朝
山吹の花の盛りになりぬれば井手の渡りにゆかぬ日ぞなき

実朝
たまもかる井手の川風ふきにけりみなはにうかぶ山吹の花

実朝
たまもかる井手のしがらみ春かけて咲くやかはせの山吹の花

続後撰集・春 土御門院御製
波かくる 井手の山吹 さきしより をられぬ水に かはづなくなり

芭蕉
山城へ井出の駕籠かるしぐれ

蕪村
白がねの花さく井出の垣根哉

蕪村
洗ふ流れもちかし井出の里

玉川

新古今集 俊成
駒とめてなほ水かはむ山吹のはなの露そふ井出の玉川

俊成
ときかへし井手の下帯ゆきめぐり逢瀬うれしき玉川の水

寂蓮
いかにかく 見るも聞くもと 卯の花に ほととぎす鳴く 玉川の里

寂蓮
卯の花の 垣根ばかりは 暮れやらで 草の戸ささぬ 玉川の里

定家
卯の花によるのひかりをてらさせて月にかはらぬ玉川の里

定家
過ぎがてにこころぞうつる玉河の影さへ匂ふやまぶきの花

良経
卯の花は雲にもうとき月なれば波ぞ立ち添ふ玉川の里

俊成
かげうつす井出のたまがは底すみて八重に八重そふ山吹の花

俊成
ゆふづくよ光をそへて卯の花の名よりこえたる玉川の里

慈円
玉川や 卯の花さかり 越す波の をりこのもしき このわたりかな

定家
時しらぬさとは玉川いつとてか夏の垣根をうづむしらゆき

雅経
わけいれど 袖やは濡るる 卯の花の うきたる波の 玉川の里

定家
てづくりやさらすかきねのあさ露を貫きとめぬ玉がはのさと

実朝
山吹の花のしづくに袖ぬれて昔おぼゆる玉川の里

定家
玉川に月のしがらみかけてけりいるかげみせぬ卯のはなのころ

曙覧
言ひよれどいなともうともいはぬ色に水もながるゝ堰出の玉河