和歌と俳句

藤原定家

内裏百首

吉野川いはとがしはをこす波のときはかきはぞわが君の御代

鈴鹿川やそせふみわたるみてぐらも君が代長く千代のなが月

天のはら富士のしば山しばらくも烟たえせず雪もけなくに

いかばかり深き中とてかへる山かさなる雪をとへと待つらむ

うばたまの夜わたる月のすむ里はげに久方のあまのはしだて

さざれ石巌となりてあすか川ふち瀬の聲を聞かぬ御代かな

末とほき鳥羽田のみなみしめしより幾世の花にみ雪降るらむ

敷島のみちにわが名は辰の市やいさまだ知らぬ大和言の葉

越す波にわが身吹飯のうらみきてうちぬる夢もこのころぞ見る

布引のたきにたもとをあらそひて我が年波のいづれたかけむ

さもあらばあれ名のみ長柄の橋柱くちずば今の人もしのばじ

てづくりやさらすかきねのあさ露を貫きとめぬ玉がはのさと

何故か底のみるめもおふの浦あふことなしの名には立つらむ

関の戸をさそひし人は出でやらで有明の月のさよのなかやま

結びおきし秋の嵯峨野のいほりより床は草葉の露になれつつ

水茎のあとかきながすすみだ川ことづてやらむ人もとひこず

はれぬまにまづ朝霧を立ちこめて飾磨の市に出づる里びと

より来べきかたもなぎさのもしほ草かきつくしてしわかの浦

君になほあふ坂山もかひぞなきすぎのふる葉に色し見えねば

待ちこひしむかしは今も忍ばれてかたみさびしきみつの濱松