人麻呂
雖見飽奴吉野乃河之常滑乃絶事奈久復還見牟
見れど飽かぬ吉野の川の常滑の絶ゆることなくまたかへり見む
人麻呂
八雲刺出雲子等黒髪者吉野川奥名豆颯
八雲さす出雲の子らが黒髪は吉野の川の沖になづさふ
人麻呂歌集
馬屯而打集越来今日見鶴芳野之川乎何時将顧
馬並めてうち群れ声来今日見つる吉野の川をいつかへり見む
人麻呂歌集
辛苦晩去日鴨吉野川清河原乎雖見不飽君
苦しくも暮れゆく日かも吉野川清き川原を見れど飽かなくに
人麻呂歌集
吉野川河浪高見多寸能浦乎不視歟成甞戀布真國
吉野川川波高み滝の浦を見ずかなりなむ恋しけまくに
人麻呂歌集
欲見来之久毛知久吉野川音清左見二友敷
見まく欲り来しくもしるく吉野川音のさやけさ見にともしく
人麻呂歌集
古之賢人之遊兼吉野川原雖見不飽鴨
いにしへの賢しき人の遊びけむ吉野の川原見れど飽かぬかも
古今集・恋 貫之
吉野川いはなみたかく行く水のはやくぞ人を思ひそめこし
古今集・恋 よみ人しらず
吉野河いはきりとほし行く水の音にはたてじ恋ひは死ぬとも
古今集・恋 躬恒
吉野川よしや人こそつらからめはやく言ひてしことは忘れじ
古今集・恋 よみ人しらず
流れては妹背の山のなかにおつる吉野の河の よしや世の中
千載集 顕昭法師
吉野川みかさはさしもまさらじをあをねをこすや花の白浪
千載集 藤原範綱
吉野川きしの山吹さきぬれば底にぞふかき色は見えける
続後撰集・雑歌 基俊
吉野川 空やむらさめ ふりぬらん 岩間に滝つ 音とよむなり
頼政
吉野川 岩瀬の波に よる花や あをねが峰に 消ゆる白雲
俊恵
吉野川 いはねに冴ゆる 月影は こほりを夏の ものと見よとや
式子内親王
今はただ風をもいはじ吉野川岩こす浪にしがらみもがな
鴨長明
吉野川 しがらみかけて さくら咲く 妹背の山の あらしをぞ待つ
定家
吉野河岩うつなみもよとともにさぞくだけけむ知る人はなし
良経
吉野川はやき流れを堰く岩のつれなきなかに身を砕くらむ
新古今集 家隆
吉野川岸のやまぶき咲きにけり嶺のさくらは散りはてぬらむ
良経
吉野川たぎつしらなみ氷りゐて岩根に落つる峰の松風
良経
吉野川いはもる水のわきかへり色こそ見えね下さわぎつつ
雅経
吉野川 ゆくせも見えぬ かすみより 風に流るる 花のしがらみ
定家
吉野川たぎつ岩波せきもあへずはやく過ぎ行く花のころかな
俊成
吉野川いはこす波を眺むれば絶えせぬ水の心をぞ知る
良経
吉野川たきのみなかみ凍るらし今朝よわりゆく岩波のこゑ
定家
吉野川いはとがしはをこす波のときはかきはぞわが君の御代
新勅撰集・夏 前関白道家
よしのがは かはなみはやく みそぎして しらゆふはなの かずまさるらし
続後撰集・春 土御門院御製
よしの河 かへらぬ春も けふばかり 花のしがらみ かけてだに堰け
続後撰集・雑歌 雅成親王
よのなかは ふちせもあるを よしの河 われのみふかき みくづなりけり
許六
唐の花ながれて来るや吉野川
凡兆
山吹の莟も青し吉野川
蕪村
花に遠く桜に近しよしの川
太祇
落ち初めし滝津瀬いづく吉野川
青畝
月の戸に吉野の早瀬まのあたり
草城
鮎の脊のみゆるがごとし吉野川
秋櫻子
瀧いくつ懸けて尽きける吉野川