駿河なるたごの浦浪たたぬ日はあれども君を恋ひぬ日はなし
夕月夜さすやをかべの松の葉のいつともわかぬ恋もするかな
あしひきの山した水の木隠れてたぎつ心をせきぞかねつる
吉野河いはきりとほし行く水の音にはたてじ恋ひは死ぬとも
たぎつ瀬のなかにも淀はありてふをなどわが恋ひの淵瀬ともなき
山高み下ゆく水の下にのみ流れてこひむ恋ひは死ぬとも
思ひいづるときはの山の岩躑躅いはねばこそあれ恋ひしきものを
人しれず思へばくるし紅のすゑつむ花の色にいでなむ
秋の野の尾花にまじりさく花の色にやこひむ逢ふよしをなみ
わがそのの梅のほつえに鶯の音になきぬべき恋もするかな
あしひきの山郭公わがごとや君に恋ひつついねがてにする
夏なれば宿にふすぶるかやり火のいつまでわが身したもえをせむ
あはれてふことだになくば何をかは恋のみたれの束ね緒にせむ
思ふには忍ぶることぞ負けにける色にはいでじと思ひしものを
わがこひを人しるらめやしきたへの枕のみこそ知らば知るらめ
浅茅生の小野の篠原しのぶとも人しるらめやいふ人なしに
人しれぬ思ひやなぞと葦垣のまぢかけれども逢ふよしのなき
思ふとも恋ふとも逢はむものなれや結ふ手もたゆく解くる下紐
いでわれを人なとがめそ大舟のゆたのたゆたに物思ふころぞ