和歌と俳句

蚊遣り 蚊遣火

好忠
蚊遣火のさ夜ふけがたの下こがれ苦しやわが身人知れずのみ

公実
蚊遣火の したに燃ゆれば あぢきなく むかひの里を ふすぶるになる

顕季
わぎもこに いかで知らせむ 蚊遣火の したもえするは くるしかりけり

俊頼
世の中を あくたにくゆる 蚊遣火の おもひむせびて すぐすころかな

俊頼
蚊遣火の煙になるる菰簾ものむつかしき我が心かな

俊頼
来る人もなき山里はかやり火のくゆる煙ぞ友となりける

俊成
夕立のそそぎてすぐる蚊遣火の湿りはてぬるわが心かな

西行
夏の夜の月みることやなかるらむかやり火たつる賤の伏屋は

式子内親王
山がつの蚊遣火たつる夕暮もおもひの外にあはれならずや

鴨長明
蚊遣火の 消えゆくみるぞ あはれなる 我が下もえよ 果てはいかにぞ

家隆
蚊遣火のけぶりにしづむ山里を人のとはぬもおもひしるらん

定家
さらでだにいぶせき宿ぞ蚊遣火にくゆる烟のたたぬよもなく

定家
ひとはすむとばかり見ゆるかやり火のけぶりを頼むをちの柴垣

定家
かやり火の烟のあとや草枕たちなむ野邊のかたみなるべき

俊成
蚊遣火のけぶりばかりや山がつの宿を知らるるよそめなるらむ

俊成
あはれさを人見よとても立てざらむ煙さびしきしづが蚊遣火

俊成
やまがつのふせやの庭の蚊遣火も煙はおなじ雲となるらむ

定家
ながめやる麓のいほの蚊やり火のけぶりも涼しおろす山かぜ

慈円
蚊遣火を たててぞ人に 知られぬる もりのあなたの 里のひとむら

定家
こがるとて烟も見えじ時しらぬ竹のは山の奥の蚊遣火