尋ぬべき道こそなけれ人しれず心は馴れてゆき返れども
ほのかにも哀はかけよ思草下葉にまがふ露も漏らさじ
夏山に草隠れつつゆく鹿のありとは見えて逢はじとやする
知るらめや葛城山にゐる雲の立居にかかる我が心とは
頼むかなまだ見ぬ人を思ひ寝のほのかに馴るるよひよひの夢
あはれともいはざらめやと思ひつつ我のみ知りし世をこふるかな
見えつるか見ぬ夜の月のほのめきてつれなかるべきおもかげぞそふ
束の間の闇のうつつもまだ知らぬ夢より夢にまよひぬるかな
下にのみせめて思へどかたしきの袖こす瀧つ音まさるなり
胸の関袖のみなととなりにけり思ふ心はひとつなれども
寄る波も高師の濱の松風のねに顕れて君が名もおし
いにしへにたち還りつつ見ゆるかななほこりずまの浦の浪風
こひこひて よし見よ世にもあるべしと いひしにあらず きみもきくらん
つらしともあはれともまづ忘られぬ月日幾たびめぎりくぬらん
こひこひて そなたになびく 煙あらば いひしちぎりの はてとながめよ