神無月嵐は軒を払ひつつ閨までしくは木の葉なりけり
いかにせむ千草の色は昔にてまた更になき花の一本
槇の屋に時雨は過て行物を降りも止まぬや木の葉なるらん
淋しさは宿のならひを木の葉しく霜のうへにも詠めつるかな
冬くれば谷の小川の音絶て峰の嵐ぞ窓をとひける
鳰鳥の立居に払ふつばさにも落ぬ霜をば月としらずや
冬の池の汀にさはぐ葦鴨のむすびぞあへぬ霜も氷も
真柴つむ宇治の川船よせ侘ぬさほの雫もかつ氷つつ
色々の花も紅葉もさもあらばあれ冬の夜深き松風の音
さらぬだに雪の光はある物をうたた有明の月ぞやすらふ
吹かぜにたぐふ千鳥は過ぬなりあられぬ軒に残るをとづれ
おもふより猶深くこそ淋しけれ雪ふるままの小野の山里
住みなれて誰ふりぬらんうづもるる柴の垣ねの雪の庵に
年波の重なることを驚けばよなよな袖にそふ氷かな