和歌と俳句

式子内親王

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神無月嵐は軒を払ひつつ閨までしくは木の葉なりけり

いかにせむ千草の色は昔にてまた更になき花の一本

槇の屋に時雨は過て行物を降りも止まぬや木の葉なるらん

淋しさは宿のならひを木の葉しくのうへにも詠めつるかな

くれば谷の小川の音絶て峰の嵐ぞ窓をとひける

鳰鳥の立居に払ふつばさにも落ぬ霜をば月としらずや

冬の池の汀にさはぐ葦鴨のむすびぞあへぬ霜も氷も

真柴つむ宇治の川船よせ侘ぬさほの雫もかつ氷つつ

色々の花も紅葉もさもあらばあれ冬の夜深き松風の音

待たれつる隙しらむらむほのぼのと佐保の河原千鳥鳴くなり

さらぬだに雪の光はある物をうたた有明の月ぞやすらふ

吹かぜにたぐふ千鳥は過ぬなりあられぬ軒に残るをとづれ

おもふより猶深くこそ淋しけれふるままの小野の山里

住みなれて誰ふりぬらんうづもるる柴の垣ねのの庵に

年波の重なることを驚けばよなよな袖にそふかな