後撰集 よみ人しらず
冬の池に すむにほ鳥の つれもなく したにかよはん 人にしらすな
好忠
鳰鳥の氷の関に閉ぢられて玉藻の宿を離れやしぬらん
式子内親王
鳰鳥の 立居に払ふ つばさにも 落ぬ霜をば 月としらずや
鴨長明
うすこほり つばさにかけし 鳰鳥の いくよつもりて ひまもとむらむ
鴨長明
霜はらふ 羽音にのみぞ 鳰鳥の あしまの床は 人に知らるる
良経
にほとりの 波にまかする 浮き巣だに ならす汀に わきてよるなり
定家
鳰鳥の したのかよひも 絶えぬらむ 残る浪なき 池のこほりに
暁台
かひつぶり浮出まで見て過ぬ
几董
野の池や氷らぬかたにかいつぶり
松影へ水尾引いて浮くかいつむり 石鼎
汀女
鳰葭に集りぬ湖暮るる
沈めば沈み浮めば浮み鳰二つ 花蓑
蘆の風に流るゝさまやかいつむり みどり女
風浪やとばしりあげて沈む鳰 花蓑
風の鳰きほひなきつゝ進みけり 石鼎
かいつぶりに女のなげし石とべり 禅寺洞
悌二郎
夕沼や水尾の先なる鳰一つ
水巴
一つ行きてつづく声なしかいつぶり
鳰浮きあはせたる波路かな 烏頭子
鷹女
鳰鳴くや落葉踏みくる茶の帽子
鳰浮くと枯蘆蔭の人の声 石鼎
水かぶりたかぶりをどり鳰しばし 石鼎
水玉や尻ををかしくかいつぶり 喜舟
錯落と流れてゆくやかいつぶり 槐太
悌二郎
鳰二つかづき潜きてへだたりぬ
草城
にほどりや野山の枯るる閑けさに
草城
かいつぶりさびしくなればくぐりけり
汀女
夕波にまぎるる鳰のかなしけれ
鳰の描く水尾の白線剛かつし しづの女
楸邨
鳰あそぶ舟路はありぬ萱の中
楸邨
鳰のこゑ冬田に失せて沼におこる
耕衣
母は子を叱つてゐるが鳰すすむ
鷹女
鳰のこゑ湧き起り冬日野に小さし
鷹女
鳰のこゑ日輪に触り野を衝ける
鷹女
漣のひかり凍てつつ鳰棲めり
遠鳰や語らひ歩く二人づれ 花蓑
鳰啼いて畝傍の町の昃りぬ 槐太
虚子
浮き沈む鳰の波紋の絶間なく
虚子
鳰の頭伸びしと見しが潜りけり
秋櫻子
河口には波騒げども潟の鳰
波郷
東京に出て日は西す鳰の岸
多佳子
頭勝なる鳰の身すぐにくつがへる
鷹女
中年に日月速し鳰
青畝
淀君の秘史以後のこと鳰
秋櫻子
舟通しふかく入り来て鳰の居り
不死男
松籟の大揺れ止めりかいつぶり
波郷
古妻や鳰とあそびて誕生日
林火
かいつむりみな潜りたり人も去る
汀女
鳰沈みわれも何かを失ひし
はたらいて死後のことなどかいつぶり 双魚