冬の野に少年教科書を繙き
子の望み大いならざりき冬の野に
子と母に冬日こぼるる燦燦と
野路さむく吾子のこころにさからはざり
機翼去り草原母と子に枯るる
冬の街ゆけり啄木もかくゆきし
雪を来て地階灯れり昼まばゆく
雪を来て酸ゆき林檎を欲り食ふ
とぼしらの冬日に人を斬る絵を描き
冬日凍つ紅きゑのぐは血の匂ひ
一枚二十銭の絵を売り食へり凍ての朝餉
冬日野を染めつつ松を聳えしむ
鳰のこゑ湧き起り冬日野に小さし
鳰のこゑ日輪に触り野を衝ける
漣のひかり凍てつつ鳰棲めり
野の池の凍て枯蘆をめぐらせる
吾が行くに冬原はあり光芒と
屋上に人等をり我はマスクしをり
屋上の猿をさびしみマスクなせり
北風の猿に忿られ吾がマスク
芝枯れて爆音穹を真蒼とせり
戦ひえお忘れゐしにあらず枯芝に
しづかなる世を欲ればゐる枯芝に
枯芝を歩み夫と子の家に帰る