和歌と俳句

三橋鷹女

冬の野に少年教科書を繙き

子の望み大いならざりき冬の野に

子と母に冬日こぼるる燦燦と

野路さむく吾子のこころにさからはざり

機翼去り草原母と子に枯るる

冬の街ゆけり啄木もかくゆきし

を来て地階灯れり昼まばゆく

を来て酸ゆき林檎を欲り食ふ

とぼしらの冬日に人を斬る絵を描き

冬日凍つ紅きゑのぐは血の匂ひ

一枚二十銭の絵を売り食へり凍ての朝餉

冬日野を染めつつ松を聳えしむ

のこゑ湧き起り冬日野に小さし

のこゑ日輪に触り野を衝ける

漣のひかり凍てつつ棲めり

野の池の凍て枯蘆をめぐらせる

吾が行くに冬原はあり光芒と

屋上に人等をり我はマスクしをり

屋上の猿をさびしみマスクなせり

北風の猿に忿られ吾がマスク

マスクして瞳にははろけき雪の富士

芝枯れて爆音穹を真蒼とせり

戦ひえお忘れゐしにあらず枯芝

しづかなる世を欲ればゐる枯芝

枯芝を歩み夫と子の家に帰る