和歌と俳句

三橋鷹女

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夕月やあぎと連ねて鯉幟

一むらのおいらん草に夕涼み

桜桃のみのれる国をまだ知らず

梅雨冷えや一りん赤き花ざくろ

鈴蘭の香はしけやしかをり傘

人妻は髪に珊瑚や黄雀風

葉桜や豊かに垂れし洗ひ髪

あかねさす雲ゆるやかに山開き

みどり葉を敷いて楚々たり初鰹

蝕める蕗の広葉や更衣

金魚売楓の雨にあひにけり

唇の玉虫色や夏衣

ぬけ落ちし玉のかんざし明易き

短夜の壺の白百合咲き競ひ

をりからの月光まぶし忘れ草

昼月に竹の皮散る薄暑かな

セルと重ねあやめ模様の襦袢かな

セルを著て静脈青き腕かな

ほそ長き紙屑籠や梅雨の縁

鰹船あげて明るし月見草

日の本の男かなしも業平忌

芍薬の日傘に雨や業平忌

梅雨冷えや殻やはらかきかたつむり

夏痩の私をまへに似顔絵師

秋近き世をなりはひの似顔絵師