和歌と俳句

三橋鷹女

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消えてゆくもののしづけさ夕虹

晩夏光老の一文字書いては消し

死にがたし生き耐へがたし晩夏光

空蝉の生きて歩きぬ誰も知らず

濡れ傘を突く薔薇園の夕映えに

空蝉を指に縋らせ寂び乙女

生と死といづれか一つ額の花

暑気兆す苦きくすりを胃に注ぎ

花柘榴家運傾き易きかな

わが丈を越す夏草を怖れけり

アマリリス朝日はつねに慈父の如く

蝉声の真只中の空蝉

黒蟻の吐息の黝き無風帯

けんらんと死相を帯びし金魚玉

炎天に繋がれて金の牛となる

俗名や月の向日葵陽の向日葵

水急ぐ白一色の菖蒲田へ

肉眼の疲れ植田をながく視て

水中花原色をとこらの夢と

やがて身の透く日を恃み青葡萄

切断一歩手前のを手繰りとる

ろんろんと魂潰えて眼の向日葵

夜天より梯子降りて来て梅を干す