消えてゆくもののしづけさ夕虹も
晩夏光老の一文字書いては消し
死にがたし生き耐へがたし晩夏光
空蝉の生きて歩きぬ誰も知らず
濡れ傘を突く薔薇園の夕映えに
空蝉を指に縋らせ寂び乙女
生と死といづれか一つ額の花
暑気兆す苦きくすりを胃に注ぎ
花柘榴家運傾き易きかな
わが丈を越す夏草を怖れけり
アマリリス朝日はつねに慈父の如く
蝉声の真只中の空蝉よ
黒蟻の吐息の黝き無風帯
けんらんと死相を帯びし金魚玉
炎天に繋がれて金の牛となる
俗名や月の向日葵陽の向日葵
水急ぐ白一色の菖蒲田へ
肉眼の疲れ植田をながく視て
水中花原色をとこらの夢と
やがて身の透く日を恃み青葡萄
切断一歩手前の虹を手繰りとる
ろんろんと魂潰えて眼の向日葵
夜天より梯子降りて来て梅を干す