汗の香の愛しく吾子に笑み寄らる
汗の香のいまだ稚き香を嗅げり
母に振る夏手袋の白き手を
子に母にましろき花の夏来る
子へ書けり泰山木の花咲くと
兄ら恋し卯の花腐しかかる日は
蛾の翳にペンを握るや兄ふたり
一群の飛魚波を蹴立てゆきぬ
夏波は女浪は見えず波の間に
子を恋へり夏夜獣の如く醒め
夏浪か子等哭く声か聴え来る
花南瓜黄濃しかんばせ蔽うて哭く
還り来てちちははのへに夏痩せぬ
虹二重傷痕秘めて語らねど
夕べ子を怒らせをれば雷雨来ぬ
緑蔭の鶴を友とし四十路なり
緑蔭にわれや一人の友もなく
純白のばらに咲かれて日々無為に
ばら剪つて青年ギリシヤ語をつぶやく
忘られてあれば静や水馬
跼まりて蟻の葬列かなしめり
夕顔に母よ短い杖ついて
初蝉をこの樹に聴くも間のあらじ
蛍売みてきしことを夫に告ぐ
貴金属など持ちませぬ李噛む