和歌と俳句

三橋鷹女

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棕梠よりも梧桐に風や半夏生

花棕梠のあたりまばゆき煙雨かな

ももしきの古き軒端や菖蒲葺く

男出て菖蒲葺くなり虹の下

千輪の花を上げたり白菖蒲

われもさす照り降り傘や花菖蒲

梅雨冷えのまつくろ鴉飛びにけり

蕗の葉に日輪躍る初夏は来ぬ

麦は秋蝶に二つの翅かな

垣ありて乙女は住めり茱萸の花

夏痩せて嫌ひなものは嫌ひなり

秋近き風鈴となりねむられぬ

吾が好きは犬と牡丹よ水を打つ

卯月来ぬましろき紙に書くことば

卯月来ぬあしたあさてを寝ておもふ

卯月来ぬ自分に飽きてゐる自分

おいらん草に情熱もゆるかなしかり

今宵に触りてしこめと吾がなりし

が白くしこめは梳けり夜の髪を

のひげの垂れて来てわれを嗤ふかな

風吹くと鹿の子の瞳ものをいふ

顔よせて鹿の子ほのかにあたたかし

世に倦めり鹿の子に倦めり泣きたかり

ひるがほに電流かよひゐはせぬか

昼顔や人間のにほひ充つる世に