和歌と俳句

鹿の子

灌仏の日に生れあふ鹿の子哉 芭蕉

鹿の子の迹から奈良の烏哉 一茶

親鹿に追ひつきたりし子鹿かな 虚子

鹿の子やふんぐり持ちて頼母しき 鬼城

埒近く鼻ひこつかす鹿の子かな 鬼城

親と行くたそがれ貌の鹿の子かな 水巴

鹿の子やゝちがふまだらの二つかな 櫻坡子

人の前に産み落とされし鹿の子かな 石鼎

ふるひ落つ一片の葉に鹿産る 石鼎

神の瞳とわが瞳あそべる鹿の子かな 石鼎

苔と陽のみどりに育ち鹿の子居る 石鼎

雨の日の親をはなれぬ鹿の子かな 石鼎

苑日々に草深うなる鹿の子かな 草城

女しきりに鹿の子愛づる暮色かな 草城

丘越えて親に逢うたる鹿の子かな 草城

竹の子をこそつかせをる鹿の子かな 青畝

風萱に赴き怪む鹿の子かな 青畝

僧に蹤き巫女に蹤き鹿の子かな 夜半

廻廊を鹿の子が駆くる伽藍かな 誓子

親鹿のあゆめる方へ鹿の子かな 波津女

人前をつづいてはしる鹿の子かな 槐太

鹿の子は聖の沓をぬぶるかな 喜舟

山のべに人疑はぬ鹿の子かな 喜舟

松風におどろき仰ぐ鹿の子かな 櫻坡子

投げし餌をあとしざりふむ鹿の子 爽雨

草わけの鹿の子等こちを見て居りぬ 石鼎

風吹くと鹿の子の瞳ものをいふ 鷹女

顔よせて鹿の子ほのかにあたたかし 鷹女

世に倦めり鹿の子に倦めり泣きたかり 鷹女

乳ふくむ脚を木の根に鹿の子かな 爽雨

仔鹿駆くること嬉しくて母離る 多佳子

仔鹿追ひきていつか野の湿地ふむ 多佳子

礎と鹿の子と鹿のたむろ中 爽雨

鹿の子ゆく親を追ひ顔待ち顔に 爽雨

大駈りしては鹿の子の親に添ふ 爽雨

鹿の子の耳掻くひづめよよと上げ 爽雨

鹿の子あり遠まなざしに立ちかしぎ 爽雨

鹿の子をり耳立てし影背にながれ 爽雨

突き上げて仔鹿乳飲む緑の森 三鬼

乳房吸う仔鹿せせらぎ吸う母鹿 三鬼

鹿の子のこち見る顔にあふるる眼 爽雨

鹿の子の蹄ふみ割り歩くなり 爽雨

ひとりにあれば鹿の子斑をふるふ 爽雨