園にして木々に雲ふれ梅雨夕べ
踏みゆらぐものに厨子あり黴の宿
病葉の黄にちり朱に散りかかり
口噤ぐあまたの莟芥子の昼
アトリエの床に芥子散る淋漓たり
わが枷によろこびもどる牛に蚊火
養生の懈怠は蠅も打たずあり
碑に毛蟲城址荒るると言はなくに
雷雨くるすいれん見ればとく閉ざし
鵜篝の錦帯橋を天に染め
夕焼濃しとびとどまりし一鳥に
葉疊に牡丹は帰しぬ更衣
病愁を捨てんと更へて絣濃し
木々と籠に交はせる鳥語明易き
地上よりしそめし鳥語明易き
おろさるる激つただ中囮鮎
竿先の消えてうちのべ鮎掛くる
礎と鹿の子と鹿のたむろ中
鹿の子ゆく親を追ひ顔待ち顔に
大駈りしては鹿の子の親に添ふ
鹿の子の耳掻くひづめよよと上げ
白秋の詩碑のからたち垣茂り
緑蔭の詩碑なり文字を青く彫る
詩碑はその母校の前の薫風に
緑蔭のもろ根のしかと地にしづみ