火をつけし蚊取線香の青さかな
さらさらと又落衣や土用干
欄に打ちのる簾の裾の音涼し
葉桜や橋の上なる停留所
甚平の紐むすびやる濡手かな
指の間を流るゝ種や甜瓜食ふ
伸ぶ蔓を追ひ巻く蔓や炎天に
読みて見し読みし頁や昼寝覚
竿揺れつ矢車迅き幟かな
五月雨や状受つけて板囲
枇杷を食ふ腕あらはに病婦かな
ころびたる児に遠ころげ夏蜜柑
夕蝉や錆垂れながく扉鋲
青嵐や小扉あいて金燈籠
水打つや蝶あらはるゝうしろより
藪の戸に筍積める車かな
大海月ほのかに過ぎし泳ぎかな
団欒や夫人見せつゝ日焼腕
日焼乳ふくませ倚れる帆蔭かな
とりあげし団扇に蟻やひるね覚
月見草やがてたゝずむそちこちに
病葉をむぐりたゞよふ洩れ日かな
窓の河初夏の蒸汽の躍り出で
菖蒲売呼びもどさるゝ向ひ雨
麦笛やおのが吹きつゝ遠音とも