冷蔵庫老妻の丈あはれ越す
紐一つ二つ甚平着なれたる
甚平のむすぶ紐にも縞ながれ
こころざし蕗撓めつつもたらしぬ
わが町の店の新茶のはたと出づ
帯を巻く時をぞ縁に単衣きる
牡丹咲くひまひまの葉の奔流に
河鹿鳴く瀬音の上へ上へ声
空路より渓の魚の鮓到りたる
鮓を食ふ二階にはかに雨ふとき
四つの葉の安き座一人静咲く
それぞれの背に湖をのべ田草取
端居して木々しづみ草しづみなり
老の肌甚平すこし刺すを着る
とく結ぶ紐も甚平着慣なれたる
田草とる笠伏しまさりつつ一つ
田草取る笠三つならぶ三つまろき
青梅雨の瑞巌寺杉ふすまのみ
松島の松もて青嶺なす島も
老幹の鼎立ちせる緑蔭に
薬箱暑気払ふもの何かあれ
庭草の穂にいづる急書を曝す
作文に加筆は祖父か夏やすみ
さぎ草の鷺の嘴さへきざみ咲く
梅雨ふかき訃音は朝と夕のもの
身一つに耐ふ人の訃と梅雨寒と