臙脂の黴すさまじき梅雨の鏡かな 蛇笏
厚板の錦の黴やつまはじき 虚子
新しき帽子かけたり黴の宿 虚子
愛着すうす黴みえし聖書かな 蛇笏
茂吉
さみだれて 畳のうへに ふく黴を 寂しと言はな 足に踏みつつ
一冊の江戸絵帖あり黴の宿 禅寺洞
黴の香のそこはかとなくある日かな 禅寺洞
沢庵の石こそ分ね黴の宿 青畝
道ばたに障子開けたる黴の宿 青畝
黴だらけの身のまはりをあらうてはあらふ 山頭火
はたかれて黴飛んでゆく天気かな 青邨
かうして暮らして何もかも黴だらけ 山頭火
末の子が黴と言葉を使うほど 汀女
家中の黴るはなしも可笑しけれ 虚子
此宿はのぞく日輪さへも黴 虚子
黴のものひろげ見て又しまひ置く 立子
ラヂオ今ワインガルトナア黴の宿 立子
土の黴木の根の黴や神さびぬ 風生
夜は夜の灯のとどかずに黴畳 汀女
御扉の黴にやふれし旅の袖 風生
黴煙上がりしなかの己かな 汀女
たらちねの母の御手なる黴のもの 汀女
外づしたる黴の襖の其処にある 杞陽
黴の中わがつく息もかびて行く 虚子
美しき黴や月さしゐたりけり 楸邨
なつかしき紺の表紙の黴の本 虚子
得られざりしこの静かさよ黴の灯よ 杞陽
洋傘裏の黴見つしげき雨を行く 林火
つぶやきのをぐらく黴と言へりしや 林火
黴の間に置ける火の無き莨盆 杞陽