燈に映えて影ゆたかなる金魚選る
ソーダ水日覆の奥の卓に黄に
五月の路夕風いづべよりぞ吹く
つぶやきのをぐらく黴と言へりしや
蝉の音と赤きインクを終日に
青葉雨父の形見の着古りたる
教へ子の縁談二三桐の花
海戦報町に苺の出初めたり
セル若葉あさかぜからだすきとほり
梅雨の夜のぬかるみひかる木場過ぎぬ
梅雨の道欅のみどり夜も流す
蛍籠電車郊外を走りをり
わが立つ崖大きな影を夏海へ
青き蘆ハンカチが手に真白くて
日高きに戻りセル着て庭に出づ
玻璃に金魚いきいきとクレゾール匂ふ
征くひとに一夜の宴の蛍籠
遠蚊火のふと人影に遮ぎられ
炎天や戦死の家の太柱
電線に燕水平線遠し
夕薄暑蛾と息をともにしてゐたりき
麦の雨あをきが傘に透きとほる
朝燕森のみどりの駅に及ぶ
欅越しひかりつづける六月野
桜桃持てきしひとにその後逢はず