和歌と俳句

松風に誘はれて鳴く蝉一つ 草城

石に沁む石工の汗や蝉時雨 草城

蝉遠し午下の倦怠茶を淹れよ 草城

蝉鳴いて名残雨降る木立かな 草城

飛ぶときの蝉の薄翅や日照雨 草城

油蝉朴にうつりて鳴かざりき 普羅

暁やうまれて蝉のうすみどり 悌二郎

桟や荒瀬をこむる蝉しぐれ 蛇笏

深山木に雲行く蝉のしらべかな 蛇笏

初蝉の清水坂をのぼりけり 草城

初蝉のしきりになくや音羽山 草城

しづけさに初蝉のまたきこえけり 草城

蝉しぐれ死に場所をさがしてゐるのか 山頭火

蝉とりの友が誘へば泣くばかり 月二郎

初蝉のひとつのこゑのつづきけり 草城

初蝉の樹のゆふばえのこまやかに 草城

白秋
蝉しぐれ しづかにかよふ 晝闌けて 子と組み立るる 名古屋城の型

白秋
蝉しぐれ しづけき山に 行き向ふ 眞晝は明し 我があるきつつ

白秋
蝉時雨 ながらふ聴けば 母の手の 冷たき手觸り 繁みにおもほゆ

泣いてはなさい蝉が鳴きさわぐ 山頭火

瀧川に沿うたる旅や蝉しぐれ 蛇笏

蝉時雨草加の町はなほありぬ 秋櫻子

このときのわが家しんと蝉高音 汀女

腹がいたいみんみん蝉 山頭火

蝉しぐれここもかしこも水が米つく 山頭火

蝉時雨もう枯れる草がある 山頭火

ぬれてなく蝉よもう晴れる 山頭火

あぶら蝉やたらに人が恋ひしうて 山頭火

蝉しぐれあふれるとなくあふれてゐる水 山頭火

石にとまつて蝉よ鳴くか 山頭火

風がさわがしく蝉はいそがしく 山頭火

真昼を煮えてゐるものに蝉しぐれ 山頭火

滝音の息づきのひまや蝉時雨 不器男