和歌と俳句

種田山頭火

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廃坑、若葉してゐるはアカシヤ

ここにも畑があつて葱坊主

香春をまともに別れていそぐ

若葉清水に柄そへてある杓

あるけばきんぽうげすわればきんぽうげ

海から五月の風が日の丸をゆする

あざみあざやかにあさのあめあがり

右は上方道とある藤の花

穂麦、おもひでのうごきやう

若葉のしづくで笠のしづくで

やつとお天気になり金魚、金魚

晴れて鋭い故郷の山を見直す

育ててくれた野は山は若葉

ふるさとの夜がふかいふるさとの夢

バスを待ちわびてゐる藤の花

曲つて曲る青葉若葉

苺ほつほつ花つけてゐた

つつましく金盞花二三りん

鳴いてくれたか青蛙

葉桜となつて水に影ある

きんぽうげ、むかしの友とあるく

山ふところで桐の花

青葉の心なぐさまない

初夏の水たたへてゐる

柿の若葉が見えるところで寝ころぶ

蜜柑の花がこぼれるこぼれる井戸のふた

ふるさとはみかんのはなのにほふとき

若葉かげよい顔のお地蔵様

ボタ山へ月見草咲きつづき

ほととぎすしきりに啼くやほととぎす

ふたたび渡る関門は雨

ほうたるこいほうたるこいふるさとにきた

家をさがすや山ほととぎす

暗さ匂へば蛍

お寺のたけのこ竹になつた

いちご、いちご、つんではたべるパパとボウヤ

山ゆけば水の水すまし

ゆふぐれは子供だらけの青葉

家をめぐつてどくだみの花

ほととぎすいつしか明けた

大楠の枝から枝へ青あらし

田植唄もうたはず植ゑてゐる

竿がとどかないさくらんぼで熟れる

水田青空に植ゑつけてゆく

とうとう道がなくなつた茂り

ひとりきてきつつき

ここの土とならうお寺のふくろう

ここもそこもどくだみの花ざかり

水田たたへようとするかきつばたのかげ

梅雨晴れの山がちぢまり青田がかさなり

つつましくここにも咲いてげんのしようこ

うまい水の流れるところ花うつぎ

山薊いちりんの風がでた

水のほとり石をつみかさねては

梅雨の満月が本堂のうしろから

炎天の影をひいてさすらふ

生えてあやめの露けく咲いてる

しぼんだりひらいたりして壺のかきつばた

花いばら、ここの土とならうよ

握つてくれた手のつめたさで葉ざくら

待つてゐるさくらんぼ熟れてゐる

梅雨晴の梅雨の葉おちる

のぼりつくして石ほとけ

安宿のざくろたくさん花つけた