棹とめてのぼる小鮎を見てゐたり
鮒を釣る水面はありぬ菱紅葉
鳰のゐてしきりに鳴ける菱紅葉
かぐはしく少女がひとり稲架を結ふ
けふの稲架いさゝか青く立ちにけり
山崎の渡舟のほとり蘆を刈る
初凪に舷あらふ舸子ひとり
住の江の船より凧のあがりけり
池あれば鴛鴦のうかべる飛鳥かな
卒業の子らが机を洗ひ居る
揚雲雀おちくる淀は波たてり
双塔の古りつゝ山は蕨もゆ
見えてゐる花藻のひまの鮠を釣る
志賀の湖あらぶるほとり田を植うる
睡蓮のなべて莟める朝ぐもり
乗り入るゝ舳に蓮のくづれけり
白鷺のちかくも下りぬ蓮見舟
鷭たちて真菰の風のひとしきり
浜木綿や黒潮こゝにあらぶれど
夕霧の瀞より河鹿鳴きいでぬ
浪あらきある夜は蟹が枕べに
艙口に水夫がひまなる小鯵釣り
鱚釣と言まじへつゝ湯あみゐる
舟虫になれつゝけふも湯籠りぬ
けさあひし蜑が焚くちふ鯖火見ゆ
丹波路の早稲は穂に出ぬ霧にぬれ
あけくれに霧ふる早稲を刈りいそぐ
猪が出てはやあらすちふ早稲を刈る
朝ごとに子は栗ひろふ館のあと
雁とほくわたり晨鐘やみにけり
沖の鴨夕波たちてちりぢりに
石蕗咲きぬ網干す蜑に踏まれつゝ
柚子黄なる蜑の家居が四五戸ほど
霜凪の崎のけむりは瓦焼き
雪の夜のうすき紅茶は婢が淹れし
炭ついでもの書くことにいそしめり
滝涸れて氷柱の鉾を逆しまに
かうかうと風の音ある寝釈迦かな
雨雲に鐘のこもらふ寝釈迦かな
昏き雨四簷をたゝく寝釈迦かな
鹿尾菜干す磯は荒たり人住まず
鹿尾菜干し鴉の群のあさるまゝ
捕鯨船揚げしなぞへは麦青く
潮騒の磯田蛙の夜となりぬ
土用波よせくる温泉壺しろく照り
土用波搏ち去り温泉壺たぎちゐる
舟虫の温泉壺となりぬ夕潮に
手花火や道のべの温泉にひたりつゝ
湖の田となるほとり藻を刈れる
初あらし湖の鮠きて小田に群れ
乗り入れて小田につなげり藻刈舟
温泉けむりにやせし穂芒ひかりなく
鶺鴒のひかり飛ぶものついばめる
園あれぬ木の実ふる日をかさねつゝ
月の畦垂穂ひかりてゆきがたし
鳰の湖いく門川と舟かよふ
稲刈れる田ごとに野川ひかりそふ
稲架のかげ野川にあればむらさきに
紅葉鮒ひらめき野川すめりけり
稲舟に家鴨鳴きつれしたがふも
ひしひしと霜の田ふかし藺を植うる
もろの手にしんじつ青き藺を植うる
よろけつゝ沼田ふみしめ藺を植うる
かじかめる手のいつしんに藺を植うる
霜どけの藁塚にほふ朝は来ぬ
枇杷の花汀はとほくしりぞける