和歌と俳句

山口草堂

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さゝげゆく傀儡の鈴ちりちりと

傀儡師の白くにごれる目を見たり

傀儡師のかごといふとき目をつむる

傀儡師に晴着の蜑の子等つどふ

時雨去り寂光苔をにほはしむ

風の鳴る朝水仙のひとつ咲けり

呼びかはし東風の礁間の石蓴掻き

雪の嶺たゞちに鴨の湖に立つ

湖の面に温泉けむりあがり雪晴れぬ

海苔干すや磯田の雪を踏みしだき

荒海のとぼしき海苔を雪に干す

沖くらし鵜をさきだてゝ吹雪くる

沖くらし鵜がきて礁の雪をおとす

石蓴掻く老のたつきに雪降れり

石蓴掻礁うつるとき濤搏てり

ゆき暮れし峡に炭竃火を吐ける

寄りゆけば炭焼く人がひとりゐる

渦潮の霞に鳴れり船も鳴る

渦鳴りて春潮船を傾けぬ

東風さむく真青き渦の群を見たり

渦潮の鰆とる舟かしぎ舞ふ

鶯や潮平かの岬に鳴く

とぼしらの麦打つ庭も砂灼けぬ

甘藷植うる同じ手ぶりに砂灼けぬ

砂灼けて甘藷植う人等言もなく

甘藷植ゑて砂の熱きに憩ひゐる

吾子よ汝がつぶらの瞳さへ夕焼くる

朝焼の波飛魚をはなちけり

飛魚の波秀だちきて船を搏つ

漕ぎゆけば鯖火が闇を円くしぬ

潮をまつ鯖火は波にまかせたり

青ひかる鯖釣り獲たり掌にぬくゝ

釣れさかる鯖火は闇を匂はしむ

暁の波さだかに鯖火しらけたる

羽づくらふ礁の鵜波に真向へり

夜光虫燃ゆる真闇のぽつとりと

夜光虫燃えしがそこと見わかたず

夜光虫あなたあなたの闇に燃ゆ

夜光虫燃ゆるをゆりし波を見ぬ

夜光虫燃ゆるうしろに波が見ゆ

夜光虫波の秀に燃え秀にちりぬ

夜光虫風吹く波をちりばめぬ

村あれば江あり干鰯のなぞへあり

銀と照る干鰯のなぞへ海に墜つ

ふまへつゝなぞへの干鰯掻きのぼる

ふまへつゝなぞへの干鰯掻きしさる

掻くほどに干鰯の銀の照りまさる

青潮の照る日を干鰯掻き暮らす

干鰯掻夕澄む富士に顔をあげず

黄のひかり蜜柑の郷にあまねしや

空谿の里輪あかるし蜜柑照り

葉がくれの蜜柑大きくうすみどり

蜜柑もぐ顔に蜜柑の影がゆれ

むらさきの影ゆれ蜜柑たわゝなる

蜜柑の荷物つゞく峠も蜜柑山/p>

蜜柑山北に越ゆれば札所なる

青潮が蜜柑の郷のみんなみへ

落葉ふり衣嚢にふかくもろの手を

落葉ふる音と微光につゝまれぬ