露けさの径ひとすぢの奥に住む
萩枯るゝ明るさ縁に凭るものなし
わが庭の日向日陰よ落葉風
世苦を離れしみじみ庭の冬日向
この頃の虫は昼鳴き日向に鳴き
子の留守の縁つやつやと落葉風
萩刈つてこゝろにかゝる明日を忘れ
枯萩を焚く閑日の濃きけむり
日向道落葉のひとつまづ奔り
風の日の稲扱く音の小止みなし
籾むしろ農夫行人に関はらず
籾干しを羨しみゆきて溝飛べり
寒林の樹の根樹の根にある日向
落葉風日向にとほき樹の間なる
落葉風日向にかゝりふと止みぬ
昃ればわれのみにある落葉風
雲にある冬日晩鴉を仰ぐとき
白磁壺玻璃に映れる夜の霜意
難き世にとほし霜気をへだつ玻璃
明日をおもふ電車のひゞきくる霜夜
世のけはしさ酒温むる膝を抱き
更けて寝る蒲団に嵩のなきおのれ
世に敗れ悔なし枯木矗々と
寒の雲松は斜に幹をもたげ
風塵の障子立て切り閑の情
蟄居幾日簷の枯枝反りたるまゝ
炉明りの夕世情を忘じたり
寒燈のひくき明りに五山の書
胡坐居の日々の障子に日一つぱい
世のさむさしかれどわれに酒壺と書
われに酒壺妻は寒厨に余念なき
われに酒壺子はそれぞれに持つ蜜柑
三人の子水洟たらしわれは書痴
終日閑障子の穴の鳴るまゝに
けふも風吹き街の冬塵目に泛ぶ
隙間風子に叩かする肩尖り
寒雀われ胡坐居に倦むことなし
雪片々蟄居のこゝろあそぶなり
枯木越し居向ふ窓の灯の明暗
壮行歌うたふ子に従き寒林へ
躓きし寒木の根の太々し
子と二人寒木の瘤打ち嗤ふ/p>
なほ絡む枯蔓ひける子の無心
床の木瓜閑座の位置も日々同じ
梅一りん二りん無為の座照り昃り
石も土も縹渺として楓の芽
早春の夜の物音に坐し無聊
さくら咲き起居に目立つ部屋の塵
芽吹くもの芽吹き茫然と髭を剃る
門ざくら見てゐしが子に訝られ