和歌と俳句

石塚友二

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荒屋に春の烈風体衝り

春寒し夜されば疼く脳の芯

命小さし余寒の夜空締め出だす

冬帽の黒脱げば斑らなり黄塵

啓蟄や煙草が抉る舌の苔

疾風行春塵溜り来る睫毛

雁帰る卒然明き六区の灯

想ひ寝の覚めては遠し花の雨

躊躇へば時のうつろひはや四月

向日の性に芽吹きぬ欅楢

強東風の一日の暦消して歇む

露次の溝しらげ水泡の生める蠅

玉苣萵の早苗に跼むバス待つ間

たまゆらの月の曇りに卯月星

八重桜言霊呆と髭の顔

唐茄子の苗四五植うる狭簷下

思濃くなほ逢ひかねつ花の夜を/p>

春老いぬ一身の岐路崖の上

朝日棒状破れ戸貫き夏めける

花薊寝腹作ると啜る蕎麦

幕間や初夏の虹彩踊り段

暑気にはか人の児盗む胸の中

飾り窓夏蒲団欲し就中

恋の胸みだれ果なし火蛾を前

生死軽重ニュース凝りつくの面

蠅見つゝ思ふなりひとり相撲へると

空臑に蚊や微び次ぎ焦ち読む

麦笛のしらべむかしの夢かへり

華客おほ方兵等壮んに心天

箒目の幾日たてねば暑気埃

踵つぎ人来て去りぬいざ裸

青嵐樫の翠はいとけなき

わきて夜の情なし皺む一人蚊帳

瓦斯焜炉懷えつ火を噴く高音

久方の暁のひぐらしたまくらに

酒汲んで酔はぬしづけさ夏祭

青葉闇私語し誰何し皆胸中

短夜や匍ひ出て潜る夢の淵

怯え犬しき鳴き初夏や逢魔刻

露次いでて海行く子等の夏は来ぬ

怠れる手紙重たく松の蕊

住み慣れしかど馴染まなくの家路

稲妻や江東に酒求めゆく夜

一杯屋下物莫迦貝と新生姜

混沌の放心目には瓶の蟻

友ら四万に四万や蕨もほけにけむ

静脈の黒さの手吊革に