和歌と俳句

蚊帳

蚊帳吊りて有明しある座敷かな 虚子

宵はやみ大雨につる蚊帳青し 石鼎

ひとつ蚊帳妻もみとりを終へて寝る 誓子

蚊帳にさめいきづくまいと愛しめる 誓子

月の出の今宵おそしと蚊帳をいづ 立子

旅馴れぬ子の寝つかれぬ蚊帳広し 立子

日々に明けて悔なし蚊帳の中 花蓑

つりそめて水草の香の蚊帳かな 蛇笏

初蚊帳に子ら呼吸ながく寝しづまり 悌二郎

青蚊帳に少年と魚の絵と青き 三鬼

ひめむかふ王子に蚊帳のあをがすみ 蛇笏

夕やけの中に蚊帳つるふしどかな 石鼎

臥す蚊帳に夜々の小鳩は鳴きはじむ 

路地狭く隣家の蚊帳に胸裸あり 波郷

初蚊帳寝ね臥すときは更けしとき 

青き蚊帳熟睡の吾子とならび寝む 多佳子

蚊帳青し眠らえぬ夜の瞳をつむり 鷹女

けふよりのみどりの蚊帳の環おもし 石鼎

地震ふるや蚊帳かたはづし星と居る 石鼎

蚊帳に寝て昼ながかりしおもひかな 石鼎

ふる蚊帳の中のあまりに月清し 石鼎

かけそむる月の三たびも蚊帳涼し 石鼎

眼さむるや燦として蚊帳の朝日かな 石鼎

高窓に蚊帳見えて星天にみつ 石鼎

次の間に母ゐてたのし蚊帳の子等 立子

わきて夜の情なし皺む一人蚊帳 友二

蚊帳吊ると夜も日もあらぬ吊るし捨 友二

金餓鬼となりしか蚊帳につぶやける 友二

わが家の蚊帳に一夜をしまれよ 占魚

本堂の隅なる蚊帳の吊手かな 虚子

終焉をこころに蚊帳をつる身かな 蛇笏

蚊帳をつる手のなにがなし眼をふきぬ 蛇笏

おととひの地震おもひつつ蚊帳に寝ね 石鼎

夜すがらの月をながめぬ蚊帳のうち 石鼎

夢おぼろ寝あけば坐る昼の蚊帳 占魚

蚊帳青く母は座敷に臥床たぶ 汀女

たらちねの蚊帳の吊手の低きまま 汀女

浮御堂ながめの蚊帳に継あたり 青畝

いねがたき手をさしのべぬ蚊帳の外 占魚

けふも暮る病の蚊帳の吊りどほし 誓子