和歌と俳句

及川 貞

  • 新年
  • 日々通るいまは葉ざくらとなりし道

    旅離る長けし子吾子の立つ

    噴霧器にさうびのみづ枝虹湧けり

    八ヶ岳仰ぐやわらび手にあまり

    郭公はしきりにつゝじまだ燃えず

    子が告げし木苺のみち朝あるき

    りんだうや湯の香こもれる瀬をわたる

    越の山近し花野の風は落ち

    真近なる星に夏炉のまどゐ更く

    夕やけの大きな山に迎へられ

    霧湧くやキヤムプに炊ぐ火を守りて

    険し消ぬべき灯うち仰ぎ

    髪洗ふ五月の風の井のほとり

    小草とる木かげは茱萸の紅こぼれ

    梅雨ふかし蔓まきそめし朝顔に

    臥す蚊帳に夜々の小鳩は鳴きはじむ

    縫ひあげて又縫ひつぎて梅雨の日々

    縫ふ藍の指にほの染み五月雨

    セルを着ていちご食ぶ日の誕生日

    雨のばら濡れても切りぬ誕生日