和歌と俳句

及川 貞

凧あげの原や秩父嶺あきらかに

室咲と並びて縁にものを縫ふ

雪解けの音になじみて菜を洗ふ

もとめずも心足らひぬ雛の市

受験の子いでたつ門や春の霜

春暁の不二立つ駅に子を送る

春の雪吹雪となりて行きなやむ

鴨のむれはるかに居りぬ花ぐもり

おん靴の音まぢかくて花散りぬ

春風の芝生に莚を賜りぬ

はけさも来鳴くよ子の目ざめ

窓あけて耕牛けさはすぐそこに

耕しの音さくさくと朝なりき

風の音杜にあれども丘うらゝ

花の芽や土にまみれし手が乾く

駆け下りぬげんげの畦の見えしより

クローバにまろびクローバ手に冷た

海棠のよき窓あけて人住めり

離りゆく子と野には来つ草も萌え

蕗の薹とらず歩めり馴れのみち