和歌と俳句

及川 貞

細きみち人に遇はざり咲く通草

芽のひかり山毛欅がまぶしや相模越

古る軒にあけび花あり相模越

炭乏しそのほか乏し寒明くる

子の受験言ふのみの友ゐてかなし

石楠花も咲きゐる庭のはこべ草

見るほどの春暁の雪ひとり見る

受験期やことし受験の無くてあれど

木瓜は蕾こぞりてあれば鋭さよ

鳴くと言へば蟇また鳴けり春の夕

たてまつる八十路の母に蓬もち

冴え返るその日の土筆かなしけれ

土筆添へて夕餉の箸のはじまりぬ

池しづか蟇のたまごもしづまれる

子ら揃ふ三月尽の夜の紅茶

ひるがへることなく一羽初つばめ

つばくらやまだ冷ゆる日のある今年

通夜の座のうしろにをれば遠蛙

遠蛙哀しの友も起ち居して

春愁の机古りたる桑づくゑ