和歌と俳句

燕 乙鳥

藪越しをする燕門田分れして 碧梧桐

あるときの燕ひまなし淵の面 石鼎

戸口より尾をひろげ入る燕かな 石鼎

欄干に倚れば下から乙鳥哉 漱石

索船の縄のたるみや乙鳥 漱石

川口賑ひ見たさ燕が掘筋を 碧梧桐

燕初めて見し夕凪や酒座に侍す 山頭火

晶子
つばめ来て波形描きぬ西山に土と変らぬ古き石段

燕とびかふ空しみじみと家出かな 山頭火

大戸あくればひとすぢの朝日つばくら 放哉

磯畠に高々と見し燕かな 石鼎

花の戸の奥に行き交ふ燕かな 石鼎

門の杉を燕越え戻る迅さかな 石鼎

憲吉
江戸川のみづ落ちぐちのみかほりにつばめの来舞ふ春さりにけり

赤彦
川をはさむ家みな低し水のうへを遠くより来るつばくらめ見ゆ

赤彦
濠の水みちて静けき心よりをちかへりつつ燕はうごく

我庵によらぬ燕を高う見し 石鼎

燕や懸想して見る牛車 かな女

戸口より尾をひろげ入る燕かな 石鼎

土塊に燕とまれば紫紺かな 石鼎

ひらり高う嫩葉食みしか乙鳥 水巴

昼月や雲かいくぐる山燕 蛇笏

燕や淋しき町に淋しき坂 喜舟

朝燕麦穂の露の真白なる 泊雲

燕や短剣つけし御陵守 播水

梨棚を渡りては失せ飛ぶ燕 花蓑