和歌と俳句

河東碧梧桐

首洗井の森や春田を落つる水

縁ありく鳩にも落花思ひ見る

霞む山にも運河記念林

城中の雨意島原や春の海

梨棚を結ふ里や塚の白し

道は鹿垣の上を行く真盛りの

過ぐる舟と言かはす炭山の花

杉苗を積む舟ばかり春の雨

や椰の熊野に桃李園

春の風九里峡二十里奥のあり

伊勢大観宣長山や鳴く雲雀

蟹の食みし山葵と見する梅の宿

瀬全き水となり伊吹落つ

入り口は日永大和を山河内

藤樹書院は宮境内か水温む

五島戻れば港奥ある夕

鳴く雲雀宮を三巻の縄綯へり

雛市に紛れ入る著船の笛を空

藪越しをする門田分れして

谷三郷山畑つゝじ蚕に燃えて

磧雲雀に砂とれば水にじむ程

蝶の触れ行く礎沓に匂ふ草

川口賑ひ見たさが掘筋を

水の下萌雪をへがして漂へる

いよよの峠にて一木なき春の雨