和歌と俳句

河東碧梧桐

田の畦の咲きけり初瀬道

庵を出でて道の細さよ花薺

室町や緋桃咲いたる古き家

椿落ちて鶩啄む流れかな

山椿高々とある峠かな

法皇の御幸になりしかな

黒谷の裏門はいるつつじかな

低き木に 咲いて居る山路かな

傘さして山吹を折る小庭かな

暖き乗合舟や菅の笠

うらら敷浪を又砂子かな

法話より詩話の遅日や把栗寺

五十町上れば灯す かな

道芝のくすぶつて居る焼野かな

山焼きに出て夜雉を逐ふくらさかな

把栗寺の涅槃も雛も同座かな

四五本の棒杭残る汐干かな

花を見てお身拭見ぬ恨かな

はびこりし李切りすて接木かな

谷の雪 わたるあちこちと

大風の凪し夜鳴くは帰雁かな

燕の古巣を見るや知恩院

呼子鳥また聞えずよアイノ台

樋の口や田螺とぼしき水溜り

蚕室の多摩川見えて霞かな