和歌と俳句

河東碧梧桐

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蜘の子や親の袋を噛んで出る

中空にはやて吹くらん雲の峯

河骨の花に集る目高かな

黒船の動き出しけり雲の峯

短夜の大仏を鋳るたくみかな

筆筒に団扇さしたる机かな

五月雨に学校やすむ小村かな

栗の花こぼれて居るや神輿部屋

夏帽を吹きとばしたる蓮見かな

寺による村の会議や五月雨

人の国に来てぞ似つかぬ衣更

すべり落つる薄の中のかな

乳あらはに女房の単衣襟浅き

夏木立深うして見ゆる天王寺

短夜や町を砲車の過ぐる音

舞殿や薫風昼の楽起る

愕然として昼寝さめたる一人かな

掛香や派手な浴衣の京模様

清浄と夏書の一間塵もなし

薬草を摘み居れば園の孔雀鳴く

黒谷の松や蓮さく朝嵐

菖蒲太刀前髪の露滴たらん

蘭湯に浴い錦を着たりけり

砲車過ぐる巷の塵や日の盛り

乳牛の角も垂れたり合歓の花