和歌と俳句

河東碧梧桐

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浦辺来れば裏峰尖りや夏の月

厨丁の折る花のあり夏木立

海濁る津に上る旅や麦の秋

棋に寄ると君を囲むと蚊遣して

藤棚も蘆そよげばや梅雨明り

撫子も港景色に彩らん

子を叱るさまでもと思ふ瓜の宿

葉柳に書肆あり客も飲む辻井

木調べの匠が手記や蚊の夕

鳶の栖みし木枯れを草の茂るなり

千々の条朱を引くの石あり

一行皆草苞置きぬ心太

七十二峰半ば涼雲棚引ける

雪を渡りて又薫風の草花踏む

汗を干す馬や二の茶屋雲下りて

楯囲ひして灯あるなり蛾の影も

虹のごと山夜明りす旱年

講中詣で夏痩の法師見参らす

外輪山に立つ峰雲阿蘇あらぬ

草茂る吉野は昔土蜘蛛の

橋名残葉慈姑のあるを草茂る

書庫あさりし目に醜草と茂る庭

若楓大木戸に茶店ある芝居

若楓駟馬の秣の食みこぼし

間取り図に庭木覚えや若楓