桐の花さく山畑の朝の吹きおろしなる
蚊帳に来た蝉の裾のべに一鳴きす
一笊の枇杷も盛る住み残る軒を並べ
河鹿石にゐる山おろしの風に腹白き見ゆ
杉の伸びのよき河鹿を遠音
岩魚活けてある頭の丸く押してならびて
河鹿足もとに鳴く庭石に団扇の飛んで
サビタの花その香にもあらずそよつく夕べは
門川に流れ藻絶えぬ五月かな
青物を買ふ女房の袷かな
我高く立てんとすなる幟かな
粽師の古き都に住ひけり
薬草を摘み居れば園の孔雀鳴く
鶯に若葉嵐や井の頭
鉱烟もほの匂ふ山や蕗の雨
草茎をさしたる梢藜かな
垂れ首の芥子の高さになりにけり
香をさます夕風茨の野道かな
麦の秋匈奴逼ると聞えたり
里心麦にふかれて戻るなり
起臥の神鳴月や峰の坊
照り雨や茂りの中の栗の花
茨のちる水を覆うて樗かな