和歌と俳句

長谷川双魚

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鵲の巣の揺れて河靄うすれけり

枯桑にぬくき夕べの雨ふれり

炭の炎の美しく立つ旅愁かな

寒菊の土掃きたてゝ人貧し

鮎菓子をつゝむ薄紙はなぐもり

降る雪や天金古りしマタイ伝

山茶花の艶極まりてしぐれけり

書肆いでゝ雁帰る日の雨にあふ

きざはしに日照雨すぎたる蝸牛

石蕗咲いて古径山をめぐるなり

浴衣着て水のいろまち星流れ

にのうでの嬰児のうぶ毛暑をきざす

鵙鳴いて鵜川は幽き瀬をもてり

白南風の浜あるきゐる夕鴉

水に描く日ぐれの思ひみづすまし

すゝき穂に昏れゆく雨の光りけり

こでまりにさす日まぶしみ夕疲れ

若葉透く日にはなやぎて妻の客

あくた焚くひと影に水涸れはじむ

花街の雨の冬草故郷かな

千鳥鳴くところ定まり夜風出づ

雁鳴くやこゝろ貧しく地を愛し

ひえびえと鵜の透きて蚊帳はじめ川

ふところに鳴る菓子袋雪降れり

鶲とぶ冬至の雨に湖透きぬ

獣園の欝と晴れたる大旦

老妻の遠き火事みてあまゆなり

風五月をんなの翳のととのはず

潦極月の日の吹きさらし

露けしやひとに見らるるゝ小買物

裁ち屑の彩に手をつき冬はじめ

千鳥翔つきさらぎの洲の夕明り

冬灯消し憎きをとこに会ひにゆく

尼老いぬ日の澄みに苔花ひらき

うすものに風つまりて葬了る

刻む石磨かるゝ石枯葉照り

子の縁にうすくて石に足袋を干す

枯菊を焚く影に櫛落しけり

かたつむり老いて睡りを大切に

橋早春何を提げても未婚の手

涸川の飴いろ鴉来たりけり

桑芽ぶき一村の帽古りにけり