和歌と俳句

長谷川双魚

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炎天をゆきて戻りて掌がさみし

裸子が地を撫づ母をなづるごと

緑蔭を出でてふたたび老夫婦

かやつりて身におぼえなき泪出づ

水に泛く日のなまなまと草虱

逢ひにゆく雲抱くやうに花だいて

春の土おもしこの世にをんなあり

をんな来て別の淋しさ青簾

冬日輪生者が外す死者の札

たしかめて二月の衣嚢音すなり

雲よりも花に従ふ空の色

丁子咲き夫婦が一つづつ咳す

こめかみに花野を通りきし湿り

誰おもひ出しても春日てのひらに

はつ春の婆にひとりであく扉

雨の紫苑倒るゝことを忘じをり

鴨泛いて日向は餅を焼く匂ひ

ふるさとは干菜あかりの墓のみち

夕紅葉風のかたちに女寺

みづいろの蚊帳に別れて老いやすし

子燕のうす紅の喉糸ぐるま

冬の虹貧しさは掌をひらくより

曇天の罠よりぬくきもの外す

ふるさとや昨日は棗ふところに

少年に川の向ふの冬見えず

一月の土明りして人住めり

末の子が匙なめて日を短かくす

紙の雪なにも濡らさず冬扇

返り花日向は耳が静かなり

佛花買ふ銭が幼なし十二月

水に泛く冬日掌にとるやうに死後

懐胎す千の穂絮を証とし

爪紅の素足古風なつばくらめ

妊りの昏さもつとも芽木にあり

をんなの旅風がよく見え花卯木

植木市何か買はねば夏迅し

十月の樹翳少女が聰くあり

貧乏の足袋のこはぜが光りけり

障子あけ水を見てゐる枯夫婦

墓の露草子供らは濡れざりき

蟇歩くうしろの月日よごれけり

冬の航跡老いのひろがりゆくごとし

水の色火のいろ二月近づきぬ

夜を経たる光りの中の苗木市

笹鳴や深山たびたび日をかくす

挺庫より男が現はれて冴ゆる

大寒の吹けばふくほど帆が白し

冬扇おもひ出せしが忘れけり

青い土筆いま大空は力抜く

夜の秋火だねのやうな女の目

鶏頭のうしろの芥明りかな

梁上の闇なまなまと二月去る

短日の何せむとして道に出し

大寒に入らむと町の空古るぶ