和歌と俳句

長谷川双魚

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織るまへの糸のしめりも良夜かな

やつがしら抱へてあるく土埃り

芦の絮近江にそだち水の上

きのふ来し人を数へてしぐれけり

しんがりの子に風の吹く鰯雲

枯るゝなか女あつまり灯をともす

夕しぐれ尼が財布を買ふことも

走る子がゐて草そよぐ冬の虹

雪やみて藪騒に翳もどりけり

薬きらへば日空より朴落葉

嬰児湯を濁さずぽぽと花杏

石蕗の花婆来て日向つくりけり

ほどほどに手足を使ひ二月尽

水に翳そひいつまでも冬去らず

はたらいて死後のことなどかいつぶり

貧乏はいそいそ涅槃図をひろげ

灰捨てに出て風みちの藪柑子

火葬場の青木の実空忘れをり

集卵や寒暮の山がよく見えて

寒村の日射をさそふいかのぼり

涅槃会のあつまりて齢にぎやかに

首出して湯の真中に受験生

薄氷をしぐれの後の日がぬらす

嬰かたはらにうなづきて紙漉けり

漉舟の機嫌つめたき日和かな

紙漉いて村に雪ばんばを殖やす

七月のくらきところを鷄あゆむ

蝌蚪に足出てやはらかき童女たち

満天星の花の盛りのあさきゆめ

東司古り穴蜘蛛の巣の十ヲほど

僧あるきゐて岩梨はまだ熟れず

木耳を踏み山彦の老いゆくよ

こときれて涼しくなりし蹠かな

花吹雪きをり飲食の息づかい

子を叱るため灯をつけて棕櫚の花

烏孵りて禁色の深空あり

草笛をふき萬福寺附近かな

日盛りのくらき渡舟に僧侶の子

歳時記やなんじやもんじやの花明り

炎天に揺れゐて草のしづかかな

百の田の風いくたびも青嶺さす

齢おもふたび炎天のあたらしき

平らかな地をすこし跳び雀の子

山峡をいでざる人の茂りかな

淡きはは濃き妻土用すぎにけり

仏飯の箸をいぶかる烏の子

糸瓜垂れ青しといへど夕景色

はつふゆの唇をひらきてふしあはせ

鳴くや父と駈けたる膝頭

歩くとき遠目が利いて女郎花

ががんぼの脚あまた持ち地をふまず

盆過ぎのこどもがまたぐ鯨尺

白きもの見て彷彿とをとこへし

三寒の水甕に日のそだちをり