和歌と俳句

木村蕪城

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大幟莚ひろげておろしけり

藻汐草干しめぐらせる牡丹かな

宵月のかかりてをりし簾かな

かなかなの鳴きかはしつつ遠のきぬ

春雨や一ッ時刻をたがへゐし

病人に遅き朝餉や春の雨

汽車入りて停車場くらし花の雨

物売とならび腰かけ花疲

月見草踏切番にいとまあり

誰が弾く三味線かかる夜なべ小屋

初時雨して北山の紅葉まだ

日光も奥へ来過ぎぬ散紅葉

としよりの情あたたかし根深汁

残菊や父亡き家に仮にあり

蚊帳の無きはかなき泊りかさねつつ

出勤や路地をふさげる菊車

棉熟るる日和ながらも海の荒れ

酌みこぼす焼酎燃ゆる榾火かな

禰宜もして郵便配り村の秋

病人に昼風呂立てぬ麦じまひ

湯神とし祀る義家栗の花

かかへゐし聖書の重み昼寝覚

月明かき松葉ヶ谷や日蓮忌

菊枯るる都住ひの侘びしかり

枯菊を焚いて師走の閑静

あかつきの海猛りゐる飼屋かな

病む窓にのぞむ江の島けふ祭

送り火や砂に突きたる老の膝

魂送る舟とやなほも漕ぎ出づる

蓮掘りを見んと下りたる畦くぼむ

火蛾をよけ灯を暗うせる店に買ふ

夕野分厨に筧ほとばしる

残菊にしたしむ間なく病重ね

枯木宿灯を消して出てかへりみる

海苔売女出雲もはての関訛

壺焼やどこか雅びし隠岐言葉

病む窓に伊豆の海あり実朝紀

春の夜の十時はわれに刻遅し

従妹たちみなひととなり花杏

桑畑の闇がしたしく訪れし

鈴蘭の籠土間に置き炉にあたる

をだまきの霧うすうすとまとひたる

激つ瀬に囲を張りわたし深山蜘蛛

夏雲の湧く峰ちかく軒雀

バスいたく揺るるに堪へて花野ゆく

秋の夜やたちつけ穿きて師に見ゆ

貰ひたる通草つめたし霧に濡れ

負籠の通草採る子らつづき来る

あとの疲れなかれとねがふ秋高し

わがためき蛇焼かれゐる夏炉かな

巴旦杏もぐ庭にある八ヶ嶽

くらがりに子守あそべり蚕は忙し

八ヶ嶽ここに全し野菊折る

十三夜霧降りつのるばかりなり