和歌と俳句

木村蕪城

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道すがら祭の家の炉火赤し

龍胆やここにも祀る諏訪の神

やどかりは海を知らざる子に這へり

しはぶきの霧にひびかひ杣居たる

葬祭もたちつけ穿きよ山の秋

夜田を刈るはずが炉辺に酔ひ臥しぬ

炉辺におく豊の落穂の手籠かな

石蹴をして榾運びなまけゐる

榾火焚くこともつましきさまに見ゆ

炉明りの顔へものいふ別れかな

わが荷とりて先立つ媼雪の山

嶺々わたる日に寒天を晒すなり

わすれゐるときのうれしさ冬日濃く

親あるうち癒えむとおもふ暦果つ

励めとは俳諧のこと草萌ゆる

風船やかかる男のなりはひに

夜光虫燃え天上に銀河濃く

薪割るやみやまをだまき萌ゆる辺に

あやめ咲く野のかたむきに八ヶ嶽

麦秋や抛りある鎌踏むまじく

鎌借りて鉛筆けづる麦の秋

百姓の大きな声に梅雨明くる

横顔の夜店に花を買ふ人よ

いたつきの身に殺生の蛇を打つ

蛇を焼く炉にこの家の娘ゐる

八月の炉あり祭のもの煮ゆる

祭とてたちつけの娘が家にゐる

たちつけを穿いて墓参のよそほひす

桔梗折りゆくに墓参の人とあふ

草刈れと昼寝の童起さるる

山の子とひとつ灯にある夜は長し

よその子を抱き見るわれも祭びと

桑の中すすき穂あげし幾ところ

山擬宝珠銀の蕊吐き秋風に

枝豆を引いて無月の戸にもどる

弱視われ金亀虫のごとぶつかりぬ

本にある薬の香鰯雲

鰯雲胸そらしてもうすき身ぞ

萱原の日にうづもれて薬掘る

山去るにつけて一位の実ぞ赤き

縁談はひとに紅葉はわれに映ゆ

高原の秋運転手ギター弾く

炉明りにみめよしあしの姉妹

紅葉山禰宜をろがむは伊勢のかた

炬燵あり火を入れしむる十三夜

人の父松虫草を子にかざす

炉明りに馬の顔あり電話借る

千木屋根に月照り山火いまは消ゆ

遠不二に掛稲はづす庭のうち

一尾の山女魚を獲たる炉火おこす

風花や山は二十重にわが行手

祝ごとの山の炬燵のただ熱し