和歌と俳句

蜘蛛 くも

西行
ささがにの いと世をかくて 過ぎにける 人の人なる 手にも懸らで

蘋を岸に繋ぐや蜘蛛の糸 千代女

客人に下れる蜘や草の宿 虚子

白秋
山ゆくと 妻をいたはり ささがにの いぶせき糸も 我は払ひつ

大蜘蛛しづかに網張れり朝焼の中 山頭火

雲ゆくや行ひすます空の蜘蛛 蛇笏

蜘蛛の縞に朱の筋もえて蘆の中 石鼎

風に破れし網喰ひとつて怒り蜘蛛 石鼎

蜘蛛打つて暫く心静まらず 虚子

葉を抱く蜘の脚のみ見えてをり 虚子

暮れてゆく巣を張る蜘の仰向きに 草田男

ゆふ空ゆうぜんとして蜘蛛の生活 山頭火

蜘蛛は網張る、私は私を肯定する 山頭火

大蜘蛛の蝉を捕り食めり音もなく 楸邨

古家に蜘蛛を恐れて人住めり 虚子

塵取りの手にも夕べの蜘蛛の糸 花蓑

菖蒲より菖蒲へ蜘蛛の絲長し たかし

蜘蛛の糸濃ゆき光のよぢれつつ 杞陽

影抱え蜘蛛とどまれり夜の畳 たかし

蜘蛛かなし脚つづめ死を真似るとき たかし

風に破れし網を喰ひ怒る蜘蛛なりし石鼎

くも糸をわたり返して葉のさきに 素十

くもの糸一すぢよぎる百合の前 素十

ベンチあり憩へば蜘蛛の下り来る 虚子

蜘蛛が巣を張る間切れる間の歴史かな 知世子

蜘蛛虫を抱き四脚踏み延ばし 虚子

脚ひらきつくして蜘蛛のさがりくる 杞陽

大蜘蛛の現れ小蜘蛛なきが如 虚子

夕蜘蛛のつつと下り来る迅さ見る 汀女

蜘蛛が啖ふ蟷螂寂と永平寺 楸邨

軒空に蜘蛛一点の営める 石鼎

呻吟の声夜の蜘蛛の糸一本 草田男

古家に蜘蛛が出そめて主人病む たかし

蜘蛛の糸の顔にかからぬ日とてなし 虚子

蜘蛛に生れ網をかけねばばらぬかな 虚子

囲づくりに余念なき蜘蛛太藺中 立子

囲の蝶のもがきに蜘蛛のともゆれる 多佳子

そりかへる額の花あり蜘が為 青畝

妖しさは切りはらひても蜘蛛の糸 秋櫻子

蜘蛛の囲 蜘蛛の巣

後撰集・雑歌 よみ人しらず
ささがにのそらに巣かける糸よりも心細しやたえぬとおもへば

返し
風ふけばたえぬと見ゆる蜘蛛の囲も又かきつかでやむとやはきく

蜘蛛の圍やわれらよりかも新しく 汀女

蜘蛛の圍や朝日射しきて大輪に 汀女

蜘蛛の囲の遮る径は返すべし 風生

激つ瀬に囲を張りわたし深山蜘蛛 蕪城

大櫨の雨後の一樹の蜘蛛の網 汀女

蜘蛛の囲の蝶がもがくに蝶が寄る 多佳子

蜘蛛の囲を払ひ払ひて先導す 立子

構へあり一垂直の蜘蛛の囲も 汀女

蜘蛛の太鼓 袋蜘蛛

土用芽の茶の木に蜘蛛の太鼓かな 碧梧桐

蜘掃けば太鼓落して悲しけれ 虚子

ぶらさがる厩の蜘蛛の太鼓かな 青畝


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