緑蔭に網を逃げたる蝶白し
蛍見や声かけ過ぐる沢の家
吊り下げし仮の日除の蓆かな
虹を見て思ひ思ひに美しき
虹の輪の中に走りぬ牧の柵
葉の紺に染りて薄し茄子の花
夕立のあとの闇夜の小提灯
乾坤の夕立癖のつきにけり
夕立の来て尚残る暑さかな
夕焼の黄が染まり来ぬ夕立あと
涼しさの肌に手を置き夜の秋
夕暮の薄暗がりに茄子のぞき
風あまり強くて日傘たたみもし
雪渓のここに尽きたる力かな
前通る人もぞろぞろ橋涼み
橋涼み温泉宿の客皆出でて
客を好む主や妻や胡瓜もみ
取敢ず世話女房の胡瓜もみ
胡瓜もみ世話女房といふ言葉
蜜豆をたべるでもなくよく話す
川向ふ西日の温泉宿五六軒
裸子をひつさげ歩く温泉の廊下
浩瀚の秋まで続く曝書かな
夏痩や心の張りはありながら
夏痩の人ことごとに腹を立て
夏痩の言葉嶮しき内儀かな
腹の上に寝冷えをえじと物を置き
中堂に道は下りや落し文