高浜虚子
早苗取る手許の水の小揺かな
笠の端早苗すりすり取り束ね
早苗籠負うて走りぬ雨の中
螢灯の傷つき落つる水の上
門前に蛍追ふ子や旅の宿
梅雨晴の白雲いまだ収らず
日覆に松の落葉の生れけり
忘られし金魚の命淋しさよ
棕櫚の花こぼれて掃くも五六日
藪の道人の出て来る祭かな
老禰宜の太鼓打居る祭かな
耳元に蚊の聲のして唯眠し
蚊の入りし声一筋や蚊帳の中
蝙蝠や遅き子に立つ門の母
百合折りぬやがてぞ捨てぬ水に沿ひ
月ありて幾夕立の深空かな
晩涼や池の萍皆動く
山荘や打水流る門の坂
炎帝の威の衰へに水を打つ
暑に堪へて双親あるや水を打つ
風鈴に大きな月のかかりけり
月あびて玉崩れをる噴井かな