晶子
たでの花 簾にさすと 寝ておもふ 日のくれ方の 夏の虹かな
茂吉
みなみかぜ 空吹くなべに あまつ日を めぐりて立てる 虹のいろかも
茂吉
虹のわの 清けき見つつ 紀伊のくに 音無川を けふぞわたれる
虹の輪の中に人立つ堤かな 泊雲
虹立ちて雨逃げて行く廣野かな 虚子
虹立つや湖畔の漁戸の両三戸 虚子
バス来るや虹の立ちたる湖畔村 虚子
わぎもこが長き化粧や虹の窓 花蓑
日輪と月輪を空や虹の暈 石鼎
をさなごのひとさしゆびにかかる虹 草城
虹の端森の木立をかくしけり 石鼎
虹見し瞳カツトグラスの銀匙に 石鼎
虹の輪や一人二人は石を投げ 素十
片虹といふべき虹の久しくも 草田男
谷底へかけて虹たつ山明り みどり女
濃き虹が都会の憂鬱にかかる 杞陽
虹立ちし鎌倉丸の朝かな 杞陽
水平線の虹が捧ぐる朝の空 欣一
またたけどまたたけど虹睫毛の雨 草田男
虹立ちて三保の松原日当れり 杞陽
虹まどか妻子は切に粥をふく 波郷
虹二重傷痕秘めて語らねど 鷹女
虹を見て思ひ思ひに美しき 虚子
虹の輪の中に走りぬ牧の柵 虚子
茂吉
東南の くもりをおくる またたくま 最上川のうへに 朝虹たてり
茂吉
最上川の 上空にして 残れるは いまだうつくしき 虹の断片
なかぞらに虹のかなしさ子の熟睡 多佳子
虹立つや麦藁帽の庇より 汀女
虹のぼりゆき中天をくだりゆき 誓子
朝の虹わが家の鳩を誰が啖ひし 三鬼
虹消えし空より乳房赤坊に 朱鳥
滝壺の岩根に朝の虹かかり 立子
夕虹や三年生き得ば神の寵 波郷
女童泣き男童抱く虹の下 多佳子
虹新し田にてをとめの濡れとほる 多佳子
爪立てども切れたる虹のつながれず 多佳子
虹消えて了へば還る人妻に 鷹女
海上の音みな虹の環に籠る 誓子
眼に力籠めて立てるに虹衰ふ 誓子
夕虹や驟雨のあとの舟溜り 立子
濃き低き虹を冠りぬ幾工場 波郷
虹消えて土管山なす辺に居たり 波郷
虹見し子の顔虹の跡もなし 波郷
老ゆるべし虹の片はし爪先に 鷹女
消えてゆくもののしづけさ夕虹も 鷹女
流水一途七色ひびきあひて虹 草田男
虹立てり病来るまで病まざるなり 草田男
虹明り杖で刈りたる花二三 草田男
梯子の裾に腰かけ仰ぐ旅の虹 草田男
働くや根のみの虹を地の上に 三鬼
歎きゐて虹濃き刻を逸したり 多佳子
次第に虹一生懸命睡る赤児 草田男
虹の環に掘るや筋骨濡れ濡れて 三鬼
切断一歩手前の虹を手繰りとる 鷹女
我生の美しき虹皆消えぬ 虚子
片虹を飛騨に見下ろす峰の神 秋櫻子
虹の環に白雲を容れ通らしめ 誓子
虹をかし長女も次女も嫁にだし 万太郎
十勝野は落葉松つづき虹低し 秋櫻子
虹立ちし富士山麓に我等あり 立子
虹ふた重つたなき世すぎ子より子へ 悌二郎
虹立ちてみないきいきと山の草 汀女
一生を見し思ひして虹を去る 林火
虹昇るラジオ名曲伴ひて 林火
虹仰ぐとき相似たりをとめご等 汀女