和歌と俳句

與謝野晶子

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ひたすらに 余所の少女を 語るより 悪心おこり 口びるを吸ふ

宿世をば あへて憎まず わが涙 いとこころよく 湧きいづる日は

われの云ふ 悲しきことと 世の人の 悲むことと 少しことなる

やや黄ばむ あぶら菜の先 見るごとく 夕月にほふ かつらぎの山

なほ少し 忘れずに居る ことなどを 口ばしるより 優しきはなし

少女子の 心みだして あるさまを 萩すすきとも あなどりて見よ

ひんがしに 月の出づれば 一人の 秋の男は 帆柱を攀づ

神仏 あらはれしごと 思はれし わが世の三とせ 忘れかねつも

春の夜の 人の中にも 若草の みそか人待つ 君はめでたし

たでの花 簾にさすと 寝ておもふ 日のくれ方の 夏のかな

夕されば 忍びて馬車を おくりくる ならひとなりぬ 憎からねども

よそごとに 涙こぼれぬ ある時の ありのすさびに ひきあはせつつ

しろがねと 緑をうらに 表にし 二十のこころ ひろごりて行く

夏の野に とりいれすなり 裸麦 その香おもほゆ わかき日の恋

よき香する 毒のしたたる 心地して よらずなりたる ある家の窓

うす紅に 薄のなびく 初秋の 河原につどふ 嘴ぼそ鴉

戸あくれば ニコライの壁 わが閨に しろく入りくる 朝ぼらけかな

垂幕も とばりも春は ひだつくれ 思ふ人らの たはぶるるごと

親ゆゑに 口をしかりし 二十とせは 何にもあらず 君を得つわれ

おもしろく 悲しく妬く さまざまに 変る心の うづ巻を愛づ