ある宵の あさましかりし ふしどころ 思ひぞいづる 馬追啼けば
ひだりして 枕ぬれけり としごろを 片寝しにける あしきならひに
遠方の 雷鳴ききて たましひの 消ゆてふ人を いだきたまひぬ
つややかに 春の灯ならぶ 円山へ 法の灯ともる 音羽の山へ
花鎮 祭につづき 夏はきぬ 恋しづめよと みそぎしてまし
河がらす 水はむ赤き 大牛を うつくしむごと 飛びかふ夕
わが心 さびしき色に 染むと見き 火のごとしてふ ことのはじめに
ものほしき きたな心の つきそめし 瞳とはやも 知りたまひけむ
髪なびけ 浪華のまちの 鶏鳴に 橋見て立ちし 恋しき門よ
ふと思ふ 十とせの昔 海みれば 足のよろめく 少女なりし日
春の雨 夕となりぬ 三本木 小鳥とびかふ 橋ばしらかな
さにづらふ 桜の山と 浅みどり するなる山と 春の夜あけぬ
因や果や 神の御わざは 畜類の ものゆるしせぬ 本性に似て
老よ奪れ 炎のあとの もえがらの ひそかにいぶる あさまし人を
たのもしき 人さもあらぬ わが見るは かろき方ぞと 点定すなる
あかつきの 煙の中に 水の音 するかたさしぬ 京に寝し君
こしかたの 不実つぐなふ あたひをば とれよと神は 云ひ給へども
むらさきの 蝶夜の夢に とびかひぬ ふるさとにちる 藤の見えけむ
薄の穂 矢にひく神か 川くまの され木をぬらす 秋の日の雨
十五来ぬ をしの雄鳥の 羽のごとき 髪にむすばれ われは袖ふる